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自分の呼吸音しか聴こえない。
それ以外の音は、自分の走る音だ。
冬。
走るのは、舗装された歩道。
雪は積もっていないが、歩道の脇に寄せられ、
小さな山を成してる。
それを踏まないように、気をつけながら、
走り続ける。
冬の風が、顔の横を通り過ぎて行くが、
体が温かくなっているためか、冷たさは感じない。
いつもの走るコースは、周回できるようにしている。
走り始める時に、何周走るか決める。
それを完走することを頑張る。
昼過ぎだったためか、他に人を見当たらず、
集中して走ることができる。
周回が増えるたびに、息が荒くなってくる。
ここからが勝負だ。
「ラスト1周。」
小声で呟いた。
苦しい。
最初は走るフォームや、呼吸法も意識していた。
苦しいと感じた時には、
フォームも呼吸法も、めちゃくちゃだ。
やめてしまいたいという気持ちと、
やり遂げたいという気持ちがせめぎ合う。
苦しい。
今やめても誰にも何も言われない。
向き合うのは、自分自身。
やり遂げると決めた。
近道はない。
苦しくても一歩ずつ足を伸ばす。
「あと半周。」
鼓舞するかのように、口に出した。
ここまで来ると、何かを考える余裕はない。
筋肉の疲労も感じられ、足も腕も、段々と動きづらくなっていく。
それでも、ただ必死に目標達成に向けて、
腕を振り、足を動かし、必死に息をする。
苦しい。
行け。進め。
吐きそうだ。
まだだ。
腕振れ。
足重い。
地面を蹴れ。
息が苦しい。
今終わるな。
まだだ。
走れ。
走れ。
走れ。
進め。
達成と同時に、全身の力が抜けた。
上半身が腰から折れ、倒れて行く。
膝に手をつけて、上半身を支えた。
達成感に包まれた。
激しい苦しさにも襲われる。
しばらく動けない。
呼吸を少しずつ、少しずつ落ち着けて行く。
深く深呼吸をし、上半身を起こした。
腰に手を当て、天を仰いだ。
少し荒い呼吸。
体には激しい疲労感。
それでも、充足感に満たされた。
前を向き直し、顔の汗を服の袖で拭く。
「よし。」
口に出して、体が冷える前に歩き出した。
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