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「にんじんとたまねぎ溶かすほど煮込んだの?」
息子が問いかけてくる。
「はっ。何言ってるの」
「何言ってるのじゃないよ。もう分かるよお母さん。僕だって子供じゃないんだから」
そう言った息子は、いったん話を止めて、コップに入った水を飲む。
「ハンバーグだってそうだろう。味噌で匂いを消してるつもりだけど、よく見るとピーマンとねぎがあるの分かるもん」
息子にそう言われ、私は何も言い返せなかった。
「僕食べるよ」
「えっ」
「だから食べるよ。僕ももうすぐしたら中学生だし。そしたら給食じゃなくて弁当になるだろう。友達も嫌いな食べ物頑張って食べてるって言ってるし、嫌いな食べ物があると何か恥ずかしいんだよ」
私は耳を疑った。
息子が、そんな事を言ってくるなんて思わなかったからだ。
先に弁当の話をされてたら、地獄に突き落とされたような気分になっていた。
けど、今は違う。
嫌いな食べ物を克服しようとする息子の姿に感極まり、涙が出そうになる。
だけど……。
何か腑に落ちない。
「そしたら、お母さんからの最終試験。これも食べて」
と言いながら、私はなすの煮浸しを息子の前に出した。
嬉しかったけど、何か騙された気分が拭えない。
素直に喜べばいいのに、喜べない私がいる。
私は感動よりも、主導権を握りたかった。
さぁ、どうする息子よ。
お前はこれを見て、どう動く。
私は何も言わず、息子の前に立っていた。
すると、息子は席を立ち、私の顔を見てニヤッと笑う。
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