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食べ始めて10分が経過していた。
私は頑張って納豆を食べた。
息子も頑張ってなすの煮浸しを食べてくれた。
嬉しかったけど、私と息子はまだ泣いていた。
そりゃそうだ。二人して嫌いな食べ物を克服出来たのだから……。
「ただいま」
夫が帰ってきた。このタイミングかよと思いながらも、息子に私の嫌いな食べ物を伝えたあいつが許せなかった。
「ちょっと稔、私の嫌いな食べ物を俊介に言ったでしょう」
「えっ」
「えっ、じゃないわよ、なんで話したのよ」
「言ったっていいじゃないか。現に嫌いな食べ物克服したんだろ」
夫はそう言いながら、テーブルに置いてある納豆の空箱を指差す。
「確かに克服できたけど、私にも言ってくれたっていいでしょう」
「玲子だって突然言われるの嫌だろう」
「突然言われるよりも私の知らないところで話される方がもっと嫌よ、私は稔の秘密を話したことないのよ」
「お父さんにも秘密があるの」
息子が私たちの会話に入ってくる。
「あるわよ、この間お父さんべろべろに酔っぱらった状態で帰ってきて、そのまま寝込んでおねしょしちゃったのよ」
「おまえそれ内緒って言ったろ」
「あら、あなただって私の秘密を俊介に話したでしょ」
「まあまあ二人ともケンカしないでよ」
息子がそう言って、私たちの間に割って入る。
「そう言えば俊介、おまえあの子と仲良くしてるのか、その子に好かれたくて嫌いな食べ物を克服しようと頑張ってるんだろ」
「えぇー、俊介それどういうこと。お母さん聞いてないわよ」
「お父さん、それ男同士の秘密って言ったろ」
「いいじゃないか言ったって」
「何よ、みんな自分の秘密を持ってるじゃない」
私がそう言うと、夫と息子が黙り込み、沈黙が続いた。
息子と目があった。夫とも目があった。夫と息子も目があっているように感じた。
私は思わず笑ってしまった。夫と息子もクスクスと笑う。
息子も笑っていた。
「ごはん食べよう」
私はそう言って台所に向かった。
「そうだな」
夫が賛同してくれる。
「うん食べよう、僕いっぱい食べるよ」
「好きな子の分もね」
「もうやめてよお母さん」
「ふふふ……」
秘密がばらされ、変な気分だったが、私は素直に喜んだ。
家族でこんなに笑ったのは久しぶりだった。
それと、息子が食わず嫌いを克服でき、私も嫌いな食べ物を克服できた。
「結果オーライ」
そう考える事にした。
それともう一つ、今日は二つの記念日ができた。
『食わず嫌い卒業記念』
『全員、秘密をばらした記念』
それは私にとって大切な記念日となった。
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