思い出の花

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 柩に横たわり、ディオンは目を閉じる。夜明けまであと数分。今日もまた死ぬのだ。痛みは一瞬。けれど、何度経験しても慣れない。そして激痛に苛まれて目を覚ます。ずっと眠ったままでいる方が痛みは少ない。だが、今はエリーナのために起きなければならない。痛みを遠ざけ眠りを約束してくれる魔法陣は戻ってきた日に消した。  唯一口にできるワインに多量の鎮痛剤を混ぜて誤魔化すことを考えてくれたのは彼の師インティサーネだ。彼はディオンに死を与えようと様々に手を尽くしてくれたが、ディオンを苦しめただけで成果は得られなかった。彼に与えられた傷は癒えたが、病は癒えず、彼は毎朝死に、夕には蘇る。  終わることのない苦痛が繰り返し繰り返し彼を苛み続ける。これが蘇ってしまった罰なのだろう。 『解放される道はない。人間の神に慈悲はないらしい』  インティサーネの言葉が蘇る。心臓を抉り出してももだえ苦しむだけで死ねなかったディオンを見下ろして彼はそう言った。  千年の時を越えたエルフにもわからなかった。本当の意味では決して死ねないのだ。期待してはならない。それでも―― 「死にたい。君に会いたいんだ……」  結婚指輪にそっと口づけを落とし、引き裂かれるような痛みに涙を流す。夜明けの時、ディオンは偽りの死に身を委ねる。
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