思い出の花

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 その夜、エリーナは夢を見た。精霊の夢だ。初めて精霊の顔が見えた。 「ねぇ、わたしの勘違いだったら許してほしいのだけど、あなたはマリアンヌ?」  少し悲しそうに笑った精霊は姿を変えた。アヤメほどではないが背の高い貴婦人がそこにいた。これまで不釣り合いだった傘がしっくりと似合う。 「ええ。どうしてわかったの?」 「おじいじ様と奥様の秘密を知っていたから」 「そう。賢い子ね」 「あなたはおじいじ様を助けるためにわたしを選んだの?」  マリアンヌは複雑そうに笑って、エリーナの頬を撫でる。 「ごめんなさいね。わたくし、どうしてもディオンを取り戻したかったの。犯した罪を償えるだけあの人は罰を受けた。許されると知って迎えに来ずにはいられなかったの。あなたを縛ることになってしまって本当にごめんなさい」  エリーナはゆっくりと頭を振る。 「わたし、おじいじ様と会えてよかったって思ってるの。あなたに選ばれなかったらおじいじ様に出会うことも、たくさんいろいろなことを考えることもなかった。だから、怒ってないわ。おじいじ様が大大大だーい好きな奥様に会えたのもうれしい。でも、わたしといるなら、あなたはおじいじ様と行けないの?」 「やさしい子」  マリアンヌはエリーナをやさしく抱きしめる。 「彼と逝くわ。あなたは普通の女の子になるの。元通りになるのは難しいかもしれないけれど、あなたは自由になれるわ」 「そう……ねぇ、マリアンヌ、あなたはおじいじ様を愛しているのよね?」 「ええ」  マリアンヌはわずかに頬を染めた。 「あの人ほどやさしくて素敵な人はいないもの」 「それは同意するわ。わたしもおじいじ様が大好きなの。だから、一緒に行ってね。後悔でいっぱいみたいだからやさしくしてあげて」 「わかっているわ。妻ですもの」 「ちゃんと逝かなかったら許さないから」 「ええ。ありがとう。あなたはとってもいい子ね、エリーナ。素敵なわたくしの子孫。さようなら」 「さようなら、おばあば様」  マリアンヌはもう一度抱きしめてくれてから去って行った。  はっと目を覚ますと頬が涙で濡れていた。まだ暗い時間でアヤメも眠っている。エリーナはころころと転がってアヤメの布団に潜り込む。いつものように抱き寄せてくれた。  一人ではない。わかっていても寂しかった。  次の夜、どんなに待ってもディオンは姿を見せなかった。彼は方法を見つけて旅立ったのだ。わかっていてもエリーナは待つことをやめられなかった。 「お嬢様、もう休みましょう」  アヤメにそっと肩を抱かれて、エリーナは頷く。これ以上待っても彼は来ない。  少女は騎士の手を握って目を閉じた。  夢の中に、彼らはいた。ただ笑顔で手を振ってくれた。ディオンはマリアンヌと旅立った。  
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