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数週間後、エリーナは養女としてガルディーゾ家に迎えられた。憂いはなくなり、エリーナを隠す理由がなくなったからだ。奇跡的に同じ名前で同じ年頃の女の子を見つけたのだから運命だと彼らは吹聴した。
ずっと同じ屋敷の中にいたのに不思議な感じはしたが、自由にどこでも行けるようになったのはうれしかった。
墓所も訪ねた。ディオンの柩を開けてみたが、彼はもう目覚めなかった。腐り始めているのか、目が落ちくぼみ、本当に死体なのだと感じた。
「おじいじ様と過ごした日々は幻だったのかしら」
ぽつりと呟くとアヤメがネックレスを首に掛けてくれた。
「これは?」
「大旦那様とご友人の思い出の品です。母方から代々受け継がれてきたものですが、お嬢様に差し上げるのが一番だと感じました」
エリーナはペンダントヘッドを手に乗せる。優美な女性を彫り込んだ大きなカメオだ。なんとなくマリアンヌに似ているような気がする。そっと手でなぞって行くと継ぎ目があるのがわかった。
「これ、ロケットになってる」
「おや、気付きませんでした」
エリーナがそっと押し広げると中には二人の男性の肖像画収められていた。一人は金の髪の垂れ目の青年。一人は黒髪のきりりとした目の男性だ。
「これ、若いころのおじいじ様かしら?」
「そのようですね。とするとこちらがイガラシショウエモン」
「イガラ……?」
「イガラシショウエモン。私の先祖です。大旦那様のご友人だったそうで」
「ご先祖様とアヤメは似てるわね」
エリーナがくすくす笑うとアヤメはふと笑う。
「遠い先祖といっても血の繋がりがあるのでしょう。お若いころの大旦那様とお嬢様もどことなく似ているような?」
「そうかしら? おじいじ様、すっごくナイーブな感じよ?」
「そう言われると似ていませんね。お嬢様の方が愛らしいです」
エリーナはうふふと笑ってアヤメの肩に頭を預ける。
「アヤメ、ありがとう。大好きよ」
「私も大好きですよ、お嬢様」
思い出の中で彼はいつもにこにこと笑っている。
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