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ましゅまろとハッピー
日曜日の朝七時。朝ご飯として用意したホットケーキを美味しそうに頬張るもちもちとしたマシュマロ、もとい真白を眺める。真白の肌は名前の如く白い。そしてそのほっぺはもちもちでふわふわ。だからご近所では「ましゅまろちゃん」の愛称で親しまれている。
「みおちゃんはとってもりょうりがじょうずです。ましろはいまとってもはっぴーなのです。あさからこんなにおいしいけーきがたべられて」
上機嫌な真白の褒め言葉に思わず頬が緩む。いつ見ても真白は可愛い。特に何かを食べている姿は天使みたいだ。一体どこで覚えたのか、小学一年生の割には丁寧だし色々な言葉を知っている。たまに間違った言葉を使うが、それも含めて愛らしい。
「みおちゃんはたべないのですか? こんなにおいしいのに」
「お姉ちゃんはもうお腹いっぱいだから。食べる?」
「いいのですか!? なんて……なんてすてきなごていあん。きょうはましろのおたんじょうびですか?」
目をキラキラと輝かせる真白に笑ってしまう。ホットケーキをナイフでひと口サイズに切り分け、フォークで刺して真白の口へ運ぶ。あーんと大きな口を開けて待っている真白を見ていると、ちょっとだけ意地悪したくなってくる。真白の口の前でぴたりと手を止めてみた。
「あーーーーーーー……」
十秒、二十秒と待っても真白が口を閉じることも文句を言うことをしない。てっきりすぐに意地悪に気づいていじけるものだと思っていたのに。
「あーーーーーーー……」
私のことを意地悪なんてしないとばかりに真っ直ぐに信じてくれている。大きな口を開けて待ち続ける真白に、私の方が先に折れてしまった。舌にホットケーキを触れさせると、待っていましたと言わんばかりにぱくっと口が閉じた。フォークを引き抜くと、満面の笑顔でもぐもぐと口を動かす。
「とってもおいしいです。みおちゃんはいつもましろにやさしくしてくれるのでだいすきです。いつもありがとうございのです」
「ありがとうございます、でしょ?」
「そうでした。ありがとうございのです」
全然わかってくれなかった。ずるっと椅子から落ちかける。たまにこういう天然なところもあるが、可愛いからどうしても強くは言えない。
真白は間違いに気づかないまま小さな両手でコップに手を伸ばし、ごくごくと喉を鳴らして牛乳を飲む。しっかり栄養を摂取してすくすく成長して欲しいと思う反面、このまま永遠に成長が止まって欲しいとも思う。
「真白は今日何か予定ある?」
「しゅくだいはおわったのでよていはありません。でもおといれにはいきたいとおもっています」
「それならはやく行っといで。トイレ済ませたら買い物行こっか」
「かいものいきたいです! ましろおといれいくのでまっててください」
そう言って真白は慌ただしく席を立つ。その勢いのままリビングから廊下へ飛び出した。と思ったら、ひょこっと廊下から顔を出した。
「みおちゃん、ましろがおといれいってるあいだにおいていかないでくださいね?」
「分かってる分かってる。置いて行かないから早く済ませておいで」
さあてと。どこに隠れようかな。
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