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四曲目にしても疲れた様子を全然見せない佳賀里の隣で、真白は一生懸命踊りについていく。さすがに一回見た程度で完コピするのは難しいため、ときおり佳賀里の方を見ながら踊っている。そのためワンテンポ遅れてはいるが、それでも真白の踊りは上手だった。お姉ちゃん贔屓を抜きにしても。
「いいよ~! ましろちゃんその調子!」
「はい!」
楽しく踊っている二人を見て、ふと昔を懐かしく思う。私は真白が三歳の頃から、友達と遊ぶことなく幼稚園の送り迎え含め母親業をこなしてきた。それもあって高校では部活動や放課後のバカ騒ぎとは無縁だったため、私には友達がほとんどいなかった。一方、佳賀里は誰とでも仲良くなる天才であるため、いつも佳賀里は沢山の誰かに囲まれていた。
「踊るのって楽しいよね!」
「おどりはさいこーです!」
ある日の昼休み。突然、佳賀里から話しかけられた。暇だったら付き合ってよ。そう言ってぐいっと腕を引かれ、屋上へ強引に連れていかれた。そこで佳賀里は今みたいに私の前で踊り始めた。一曲終わると今度は私に手を差し伸べて「覚えた? 一緒に踊ろ」と笑った。
「ほらほら、ましろちゃんらしさをもっと出して!」
「こうでしょうか!?」
「アハハ! そうそう上手上手」
見様見真似で踊っていると、佳賀里は才能あるじゃんと驚いていた。それが何だか嬉しくて楽しくて。それから昼休みのたびに私は佳賀里と屋上で踊った。そんなこんなで佳賀里と仲良くなると、いつの間にか私にも友達が沢山できていた。
当時のことを佳賀里に話すと、そんなことあったっけ? とすっとぼけるが、覚えていてもいなくても、私にとっては大切な。唯一無二の親友との思い出。
「ラストスパートいくよー!」
「いえっさぁ!」
曲が終わるのと同時に二人はそれぞれの決めポーズ。私が二人に拍手を送ると、笑顔でハイタッチを交わす。垂らした汗を拭いながら真白がこちらへ歩いていくる。達成感に満ちた表情ではあるが、やはり全力で踊って疲れているようだ。
「はふう。ましろはとってもつかれましたぁ……」
そう言ってリビングに入ってくるなり、ふにゃふにゃとソファに崩れ落ちた。目を瞑ってぼんやりとしている真白に、私と佳賀里がそっと音も立てずに忍び寄る。佳賀里に目で合図を送り、一斉に手を伸ばした。
「むにむにむにむに~!」
「ムニムニムニムニ~!」
「あはははははははは! やめてくださいふたりとも! くすぐったいです!」
私が右のほっぺを。そして佳賀里が左のほっぺを。同時に優しく摘まんでむにむに攻撃を開始した。真白はじたばたして逃げようとするが、ソファの上では逃げ場なんてどこにもない。唯一無二の親友と、唯一むにの真白のほっぺを愛でる。そんな至福の時間だった。
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