ましゅまろと百億万円

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 黒田さんがお菓子を袋に詰めて真白に手渡す。笑顔でそれを受け取った真白は、早速袋からチョコとグミを取り出す。もうここで食べるのかと思ったのだが、何と真白はそれを黒田さんへ差し出した。 「よつさん、いつもありがとうございのです。ましろはよつさんもだいすきですので、これはましろのほんのおきもちです」  黒田さんはとても驚いた表情を浮かべた。三つという数から、私と佳賀里と真白の分だとばかり思っていたけど、どうやらそうではなかったようだ。黒田さんはぼろぼろと泣いていた。私も口をおさえて泣いた。こんなの見せられて泣かないなんて無理。 「ありがとうねぇ、ありがとうねぇ。お釣り持ってくるからちょっと待っててね」  そう言って黒田さんは奥に姿を消す。会計は丁度でお釣りはないはずなのに。いつもだったらきな粉棒やチョコをその場でおまけしてくれるのだが、今日はどうしたのだろうか。  数十秒後、奥から出てきた黒田さんの手には小さく控えめで可憐な白い花のコサージュがあった。そう言えば黒田さんは手芸が好きで、ワンポイントアクセサリを自作するのが好きだったことを思い出す。しかも素材へのこだわりが強くクオリティが高いため、ネットショップに声をかけられ結構なお値段で取引されていると聞いたことがある。まあ、黒田さんは趣味で作った物だからと謙遜し、身近な人には格安や無料で提供しているそうだが。 「はい、お釣りの百億万円」 「こんなにすてきなおはなをましろがもらっていいのですか? ひゃくおくまんえんとはなんですか?」 「良かったね、真白。百億万円っていうのは凄く嬉しいありがとう、ってことだよ」  黒田さんはいつもお釣りを渡すときに、三十円を三百万円と言ったりすることがある。単純なノリであって特に深い意味はないのだが、今回のはいつもと桁が違うどころか存在しない単位だ。それくらい黒田さんは嬉しかったということなのだろう。黒田さんのお歳であればグミは危ないけど、たぶん勿体なくて食べずに家宝扱いされそうだから大丈夫だろう。絶対に私でもそうするし。 「おはな、にあってますか?」 「うん、とっても良く似合ってるよ。すっごく可愛い。黒田さん、ありがとうございます」 「こっちがお礼言いたいくらいよ。みおちゃんとましろちゃんのおかげで寿命が延びるわぁ。ってそうだ、買い物途中だったんでしょ? 引き留めてごめんねぇ。またいつでもきてね?」 「はい!」  上機嫌な真白と一緒に黒田さんに深々と頭を下げ、駄菓子屋を後にした。
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