龍人族

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龍人族

翌日、全員がアッシュに呼ばれて訓練所の戦闘用の敷地に集まった。 隊員たちのケガはほぼ完治していて、体力づくりに励み始めてた者もいる。 各々体をあたためていると、予定の時刻を少し過ぎたくらいに2台の車が入ってきた。 ドレイクが運転する車から、アッシュが降りた。 それに続き、6名の美しい女性達が降りてきた。 隊員たちにどよめきが起こった。 アッシュの隣を歩くのは、龍人族の第三王女のルルシェ。 アッシュの妻でありながら、親衛隊の一人だ。 女性にしては背が高く、アッシュよりやや低いくらいだ。 涼やかな目元、淡い桜色の唇、鼻筋が通っていて中性的だ。 胸元が開いたロングスカート。 スリットからは白く柔らかそうな太ももが見え隠れする。 腰まで伸びた長い髪をなびかせて歩いていた。 龍人族の星は、強力な魔鉱石が採れる小さな星だ。 故に周辺の星々から狙われやすい。 加えて、女性が7割なので戦闘力に問題があり、不安定な星だった。 そこで龍人王はアッシュと親戚関係を結び、星の護衛を大帝国に担ってもらうようにしたのだ。 大帝国側としては、魔鉱石が計画的に手に入るので、武器と魔法の開発が飛躍的に進んだ。 他の5人の女性たちも魅力的だ。 女性部隊は5人組と聞いている。 戦士、僧侶、精霊使い、魔導師、人形使いだ。 あまりの突然の華やかさに、そこだけ世界が違うようだ。 「隊員諸君、療養中に悪いね。お前たちの看護とサポートに人手がほしいかと思って、龍人族から5名貸してもらった。こちらは俺の妻の第三王女ルルシェだ」 「アシュラス様がお世話になっております。よろしくお願いします」 と、ルルシェが微笑んで言った。 ただただ美しい。 見惚れてしまう。 「まあ、ウェンには相談なく連れてきたが、いいだろ?」 「え?ああ……」 一応、訓練所は女人禁制だ。 ただ、それは敷地内だけの話で、ウェンが許可すればいいだけの話だった。 が、こんなに急に女性が増えて大丈夫だろうか……と、心配があった。 「もし、彼女らが隊員を誘惑してえらいことになると心配してるならいらない心配だ。こいつらは自分より弱い男には興味がない」 周りがざわめき立った。 「彼女達が強いというわけだな」 「そうだ。龍人族は男が少ないから、男を戦争で死なせるわけにいかない。女性部隊がメインなんだ。女性部隊の戦闘力強化は俺自らが行なった。ハッキリ言って強いからな」 確かに、彼女たちからは並々ならぬオーンの強さを感じる。 「せっかくだから、見せてやろう。お前達の中で"我こそは隊員の中で一番弱い"と言える奴はいるか?」 シータが手を挙げた。 「はい! それは間違いなく私です! 名はシータと言います。入隊歴が一番浅いです」 「じゃあ、ここで負けても恥ずかしくないな。こっちに来い。手合わせさせてやる」 ♢♢♢ シータは、コマチという風属性の魔術師と対峙した。 コマチは羽衣のようなものが武器らしい。 羽衣からもコマチのオーンが放たれている。 普段の戦争は、いわゆる剣や銃の一般的な武器が主だ。 羽衣のような、一見武器に見えないものとの戦闘は経験がない。 戦闘が開始されると、シータは剣撃を放った。 一番弱いと言いつつ、修行された力強い剣撃だ。 コマチは自分の前に羽衣で円を作り、強力なプロテクトを作った。 剣撃が弾かれる。 シータは正面からさらに斬りかかり、羽衣のプロテクトを破ろうとした。 シータの太刀筋も悪くはないが、羽衣のプロテクトが強すぎてびくともしない。 羽衣の円の中に魔法陣が浮き上がる。 魔法陣から魔法が放たれ、シータを直撃する。 シータもプロテクトするが魔法の方が強く、体が切り刻まれる。 体は吹っ飛ばされて宙に浮いた。 羽衣の円がほどけて、羽衣の端が素早くシータに伸び、シータを包む。 シータは羽衣に巻きつかれ、地面に叩きつけられた。 砂埃が立ち上がり、地面が衝撃で窪んでいる。 あっという間のことだった。 まさに力の差を見せつけられたのだ。 ♢♢♢ コマチは羽衣を自分に戻すと、シータに駆け寄った。 「シータ様、大丈夫ですか?」 「あ……はい。す、すごいですね。手も足もでませんでした。」 シータは上体を起こそうとした。 するとコマチはシータの動きを制し、膝枕をした。 「ヒーリングをいたしますね」 コマチは傷の一つ一つに手を当てて、丁寧にヒーリングをした。 突然女性が近くに来たことで、シータは緊張で固まっている。 うらやましい…… 隊員たちの心の声が漏れ出している。 ♢♢♢ 「ま、そういうわけだ。彼女たちに手合わせしてもらってもいいぞ。彼女たちは強い男が好きだからな、彼女たちが気に入れば、付き合ってくれても構わない。こんなむさい男所帯じゃヤル気も出ねぇだろ」 アッシュが隊員たちに向かって言った。 たしかに、女性たちの応援があれば、また違った刺激になるだろう。 「彼女たちの凄さはよくわかったよ。ご好意甘えて、お世話になろうと思う」 ウェンも承諾した。 「あ、もちろんお前は俺と個別特訓だから、彼女たちと接点はないんだけどな」 「別に! 何も期待してないよ!」 そうは言ったが、彼女たちの華やかさに近づけないのはちょっと残念だった。 「ウェン様には、アシュラス様と、微力ながら私がご協力致しますわ」 ルルシェが微笑んだ。
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