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寮生活二日目①
その日の自主訓練は夕方には終わり、隊員たちは寮に帰って行った。
ラムズが、時々こちらを見ていることには気づいていたが、アッシュの怒りをかったら面倒ということで、トトとシータがウェンとラムズを近づけないようにしていた。
「じゃあ、俺たちもひだまりの小屋に帰るか」
アッシュが言った。
「それなんだけど……やっぱり、俺は寮で暮らすよ。みんなと生活を共にしたいから」
「んじゃ、俺も今日から寮に泊まる。部屋はお前と同じでいいし、ベッドもお前と一緒に使えば問題ないから」
「問題あるよ! ちゃんと、お前用の部屋はあるから!」
「はいはい。わかった、わかった。行くぞ」
アッシュはどこ吹く風で寮に向かって歩き始めた。
♢♢♢
龍人族の五人も寮に寝泊まりすることになり、ルルシェはホテルに帰った。
女性陣は、戦闘服から私服に着替え、食堂に現れた。
先程の華やかな感じから、可愛らしい雰囲気に変わっていた。
「ウェンは彼女らの中から誰が好みなんだ?」
アッシュからきかれた。
「え……いや、好みなんてないよ」
正直に言えばルルシェだった。
品があり、美しくて、優しくて、才女だ。
柔らかそうな胸や太ももが頭にチラつく。
「ルルシェだろ」
アッシュが図星を突いてきた。
「……別に、そんなんじゃないよ」
必死に隠すが、うまく隠せてないのはわかってる。
「ホント、お前は顔に出やすいな」
アッシュは鼻で笑った。
「なんなら、お前の童貞卒業として、三人でするか?」
「いやいやいや! 結構です!」
ルルシェはお前の奥さんだし、その場にお前がいるのもおかしいだろ。
どこから突っ込んでいいかわからなかった。
今日は、ウェンの隣にアッシュが座り、アッシュの向いにドレイク、ウェンの向かいにシータが座った。
ラムズは、遠くでトトと一緒に座っている。
食事が始まり、シータがアッシュに話しかけた。
「アッシュ様、今日は手合わせのチャンスをいただき、ありがとうございました!」
「ああ、ご苦労さん。お前も別に弱くないよ。彼女が強かっただけで」
「はい……。自分は体格が貧弱なのがコンプレックスでしたが、女性の体力でもあんなに強くなれるなら、より一層頑張ろうと思いました……」
シータは真剣な顔つきで言った。
これまでの面談でも、シータは自分のポテンシャルの低さを悩んでいた。
たしかに、新しい可能性があるなら、やってみたいところだろう。
「俺は、ごりごりのマッチョより、ウェンくらいの細マッチョか、お前みたいな男らしくない体つきが好きなんだ。だから、無理して筋肉つけなくていいぞ」
「何の話だそれ……」
ウェンはつぶやいた。
シータもちょっと固まっている。
「俺の好みの話」
「知りたくないよ、そんなの……」
「まあ、帝王に直接話しかける度胸があるなら、こいつは伸びるよ。まず、腕力だけの戦闘なら、相対的に非力なお前は不利だろうよ。だが、今やってる訓練はそうじゃないだろ。魔力とオーンの精度をあげるのに腕力はいらない。あとは、コマチの羽衣のように、自分にあった武器を作るのも手だ」
「はい……色々なことを初めて目にして、とても勉強になりました。まだ、やれることがあるって思いました」
「だが、何にせよ、”自分”を好きかどうかだ」
「自分が好き?って、何でしょうか??」
「コンプレックスの克服も大事だが、あまり欠点ばかりみてると視野が狭くなる。今の自分の特徴を、全部強みと考えるんだ。何も、自分一人で解決しなくてもいい。バディを組んだ相手と補いあえて強くなれればそれでいいしな」
「な、なるほど……」
案外まともなことを言うアッシュに、ウェンとシータは驚いた。
「ちなみにウェンは強いけど、鈍感でアホで童貞だから、俺が色々教授して、開発をするところだよ」
「やめろ! それ以上言うな!」
シータはポカンとしている。
「シータ、今のは忘れて!」
「わ、わかりました」
「お前たちの隊長は、随分ピュアだったってことだ。これからが楽しみだな」
アッシュは夕食を頬張りながら言った。
「何が? 何が楽しみなんだよ!」
ウェンは拳を固めて言った。
シータは恥ずかしそうに夕食を食べ、ドレイクはため息をついた。
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