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寮生活二日目②
アッシュは、ウェンの部屋で隊員の訓練記録を読んでいた。
ウェンのベッドに寝転がりながら読んでいる。
アッシュを見ていて、ウェンは複雑な気持ちだった。
帝王ともなれば、姜王国の姜王よりも権限がある。
アッシュが物理的に強いのはもちろんだ。
そんな帝王がこうしてゴロゴロしているのは、平和な証でもあるが、敵か味方かを見定めるには、情がうつってしまいそうで怖かった。
「シータは、学者の家系出身なんだな」
「ああ。聖典を研究する一族だ。だから、知識ややり方の精密さは一番だよ。だが、やはり実践となると、他のセンスのある隊員の方ができてしまう」
「教え方で変わるんじゃないか?まあ、聖典の内容をきちんと教えれる奴がいないんだけどな。フェイオンも教えるのはうまくなかったぞ。『ここでズバッとやるんだ』とか、『なんとなく、ダーッと力が入った気がするだろ?』とか、よく言ってた」
たしかに、父は豪快な戦士で、”見て学べ派”だった。
「ま、お前が教えるようになればいいんだよ」
「そうだな……」
アッシュ曰く、俺はちゃんとできてはいるらしい。
あとは、論理が追いつけばいいのだ。
「なあ、ちょっとこっち来いよ」
そう言われて、ベッドのふちに座った。
「お前もいずれ、他人にオーンなり、法力を分けるときが来る。口移しの練習をしとこうぜ」
そう言って、アッシュは起き上がった。
「ほら、俺にやってみろよ」
「……やってみろと言われても……やり方がわからないよ……」
「なんだ、あの一回じゃわかんなかったのか。しょうがないな、もう一回やってやるよ」
アッシュがウェンに手を伸ばす。
「いや! いい! わかった! 受ける方はわかったから、与え方を考えるよ!」
なんとなく、武器にオーンを流すような感じだろうか。
それ自体はわからなくはないが、要はこちらからアッシュにキスをしなくてはいけない。
気が重い……が、たしかに、いつかは力を分ける場面があるかもしれないのだ……
ああ!でも気が重いっ!
葛藤していると、アッシュが話しかけてきた。
「そんなに俺とキスをするのが嫌か」
「そりゃ……男同士じゃあ……」
「へぇ、俺が女だったら平気なのか?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「ま、いいや。無理にしなくても」
アッシュはあっさり引き下がり、またごろりと横になって訓練記録を読み進めた。
……あんなに強くなりたいと思っていながら、ただ、キスに抵抗があるだけで、やらなくていいんだろうか。
効果が不確かならまだしも、自分も実感していることだ。
他の隊員で試すわけにもいかないし、ラムズでは感想が聞けない。
結局、アッシュが適任なんだ。
「……アッシュ、ごめん、さっきは躊躇ったけど、やっぱり練習するよ」
アッシュは驚いた顔をしてこちらを見た。
「素直になったんだな」
「……強くなりたいと、本当に思ってるから……」
これから、どんな戦いが待っていようと、隊員全員で生き残りたい。
それに比べたら、アッシュとのキスなんて大したことないはず……なのだ。
「んじゃ、もう寝転がっちゃったし、上から来て」
そう言われて、アッシュに覆い被さった。
ふと、昨日のラムズとのことがチラついた。
「キスそのものより、息を吹き込む感じだ」
軽く息を吸って、アッシュと唇を重ね、息を吹き込む。
吹き込むこちらに変化はない。
ちゃんと、入っているだろうか……?
アッシュがウェンの後頭部に手を回し、より唇を密着させ、ゆっくりを唇をはむ。
どう……なんだろう。
時間は長い方がいいんだろうか。
でもこの間してもらったときは、そうでもなかったような……。
「……アッシュ……どうなの……?」
アッシュに腕を回されているので、体は密着したままだが、聞いてみた。
「まあ……不安でいっぱいって感じだな」
「そりゃそうだろ……こっちはちゃんとできてるか、わかんないんだから」
「相手に不安を伝えてどうすんだよ」
「……そうだけど……」
「たとえば、武器にオーンを流すとき、武器があたかも体の一部になったかのように感じたらうまくいってる。オーンは、自分と対象がひとつながりになるっていうイメージだよ。だから、俺とお前がひとつになるようにイメージしてみろ」
「………………」
ウェンはアッシュの顔をじっと見た。
アッシュとひとつになる、って……
アッシュは日頃、非常識なことを言い、非道なことをしているので、容姿を特別に見たことがなかったが、こうして先入観なく見れば、やはり美麗だ。
「なんだよ、そんなに見つめて。さすがの俺も照れるよ」
「お前にも、照れるなんて感情があるのか?」
「たまにはな」
アッシュはフフッと笑った。
やはり、ラムズに似ている。
昨日のことを思い出しながら、アッシュにキスをした。
すると、アッシュはそっとウェンの肩を押して体を離した。
「……なあ、お前。今、誰と重ねて俺とキスしたんだ?」
思わずギクッとする。
アッシュから冷たい視線をビシビシ感じる。
なんでわかるんだ……。
「誰でもないよ……!俺が童貞だって、知ってるじゃないか」
ごまかせているだろうか……
「お前、自分が思っている以上に、嘘をつくのが下手くそだからな。今の正直に言ったら許してやる。言えよ」
ごまかせてない……!
「いや、勘違いだよ。そんなことしてない」
ラムズなんて言った日には、ラムズが殺される。
「……俺の怖さが、まだわかってないようだな」
アッシュの右手から、小さなヘビが生まれる。
「今、白状するなら、このヘビをお前の穴に突っ込むのはやめてやる。白状しないなら、お前がもう俺じゃなきゃ満足できないように開発する。さあ、どうする?」
アッシュの目つきからすると、本気のようだ。
ヘビが口からちろちろと舌を出して、ウェンの頬を舐める。
「そんなこと、考えるわけないだろ!俺は真剣にお前のことを思ってしてたのに……!」
ウソだが仕方ない……
一か八かだ……
「……ふぅん、まあそういうことにしてやるよ」
アッシュはウェンの肩を押して、ウェンを下に敷いた。
「さっきのは悪くなかったぞ。浮気の臭いがするから気に入らないけどな」
かなり怪しまれたままだが、とりあえずなんとかなりそうだ。
「俺のことを思ってくれたらしいから、お返しをしなくちゃな」
アッシュはウェンに口づけして、舐め回しはじめた。
さっき、ああ言った手前、抵抗しづらい。
しばらくアッシュの好きなようにさせた。
……
…………
………………
「……今のは、何をしたんだ?」
「は?」
「いや、お返し、っていうから、オーンを入れてくれたのかと思って……」
「いや、ただの愛を確かめ合う行為だよ」
アッシュは真顔で言う。
「ただのセクハラか!」
ウェンは起き上がって、アッシュを突き離した。
「なんだよ、俺のことを思ってたんじゃねぇのかよ」
「それはそうだけど……! もう、自分の部屋に帰ってくれ!」
ウェンはアッシュを引っ張って、ドアのところに連れて行こうとした。
「こんだけキスしといて、一人にしないでくれよ。寂しいだろ」
「知らないよ! 出てってくれ!」
「あー、そう。じゃあ、シータでも誘ってみるかな」
ウェンは、ピタッと動きを止めた。
「ダメだよ! 部隊の風紀を乱すな!」
シータならついて行きそうだし、されるがままにされそうだ。
「じゃ、今日はこの部屋に泊まるから。大体にして、俺たちはもう二週間一緒にベッドで過ごしたじゃないか。何を今さら恥ずかしがってるんだよ」
アッシュは爽やかに言った。
「……わかったよ……頼むから、変なことはしないでくれ……」
「お前が童貞の奥手であることを考慮してやるよ」
さっきヘビ突っ込もうとしてただろ!
ニヤニヤと笑うアッシュと一晩ちゃんと過ごせるだろうか……
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