ラムズと女人部隊

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ラムズと女人部隊

あれから一週間が経った。 アッシュは毎晩ウェンの部屋に泊まり、隊員のことを聞いてきた。 口移しの練習もするが、本当に練習になっているのか、単なるキスなのかもよくわからない。 なんか、騙されている気がする。 それに、アッシュと一日中いるせいでラムズと触れ合うことができない。 他の隊員とうまくやっているようには見えているので、今は見守るしかなかった。 隊員たちは龍人族の彼女たちとの交流のおかげで、ケガの回復は促進され、訓練にも活気が出てきた。 どうやら彼女たちとの手合わせで、誰が一番早く五人抜きできるかという競争になっているらしい。 コマチのほかには、 戦士で炎属性のフーゴ。ショートカットで鎧は軽装備だが、プロテクトが常に発動しているように防御力がある。 剣は細身だが、素早く斬撃を飛ばせるので、大人数に囲まれても戦える。 僧侶で水属性のヴィータ。法力を使い、サポートの術が得意だ。攻撃力はあまりないが、プロテクトが強いので、彼女と手合わせするときはプロテクトを壊せるかどうかになる。 精霊使いで木属性のジュリン。ウェーブのかかった髪をポニーテールにしている。ファンシーなドレスをきている。木の根や雷など自然の力を利用して攻撃できる。かなり広範囲の攻撃が可能だ。 人形使いで地属性のトゥラ。ボブカットで、巫女のような服装だ。地から人形を生み出し、人形を兵隊のように操れる。彼女たちの武器、防具、魔道具も作っている。 ♢♢♢ 人形使いのトゥラが、武器の手入れの仕方について解説している。 「みなさまの刀は、材料に魔鉱石を砕いたものが使われているようですね。毎日、ご自身のオーンを注げば、砕かれた魔鉱石に力がたまり、強化されます。毎日訓練で触れていれば、結果的にそうはなりますが」 魔鉱石に力を溜めていくという発想は初めて聞いた。 彼女たちの話をもっと聞きたかったが、ウェンの訓練はアッシュを膝枕しながらヒーリングすることだ。 この一週間、ずっとやっている。 常時、法力を使う練習なのだが、隊員たちの躍動感ある訓練に比べると物足りない感じがする。 アッシュも回復が進んだようで、いきなり眠ってしまうことはなくなった。 が、このヒーリングのときのアッシュは朦朧といていることが多かった。 ♢♢♢ 「俺はこの法力を、どこかで感じた覚えがあるんだが、思い出せないんだ」 「俺の親父のときとか?」 「ちょっと違うんだよな……。もっと大量だった。だが、今の技術では、法力レベルのエネルギーを人工的に大量に生み出すのは不可能だ。僧侶のヴィータも法力を使うが、あくまでプロテクトが限界だ。法力に辿り着いても、自由自在にまでいくのはかなり難しいことなんだよ」 なんだっかなぁ……と、アッシュはつぶやいた。 まったりと会話をしていると、ルルシェがラムズと何かやりとりしているようだ。 どうやらラムズが五人抜きにチャレンジするらしい。 ラムズは元々ミステリアスな雰囲気だが、さらに戦士としての落ち着きが出てきた。 「噂通りアシュラス様にそっくりですね!」 「なのに清楚な感じがステキ!」 「スタジアムでの戦い、拝見しましたわ! お手合わせ楽しみにしております!」 と、女の子たちに囲まれてチヤホヤされている。 うらやましい。 はっきりそう思った。 アッシュとばかりキスをしていると、自分の常識がおかしくなりそうだったが、女性に対しての関心は失っていないとわかって安心した。 「お前、女も好きだったんだな。」 アシュラスがウェンをチラリと見た後、起き上がった。 「女"も"じゃなくて、女"が”好きなんだけど……」 「ラムズの方にお前の気持ちが動くなら、アイツの手合わせは俺がやって殺しとくとこだった。ラムズとお前は親子なんだからな、忘れるなよ」 「最初から、ラムズのことはそう思ってるさ」 この間のは、仕方なかったんだ。 ひだまりの小屋にはアダルトなものはないから、健全な男子にはやり場がないんだ。 決して、それ以上に何かあるわけじゃない。 決して。 ♢♢♢ ラムズとコマチが対峙し、戦闘が始まる。 ラムズの剣撃をコマチはプロテクトするが、するどく手数の多い剣撃に、コマチは防戦一方で押された。 そのうち、羽衣が裂け始めた。 コマチは隙をついて魔法を放つが、ラムズはその力を絡め取り、そのままコマチに返した。 コマチはプロテクトしたものの、降参を宣言した。 いつの間にそんな技を習得したのか。 ラムズの短期間での成長に舌を巻いた。 ♢♢♢ 次にヴィータだ。 ヴィータの強固なプロテクトに剣撃を与えていく。 かなりの圧だ。 ラムズは簡単にやっているように見えるが、これだけの力で連撃するのは至難の技だ。 絶え間なく攻撃があたると、プロテクトにヒビが入った。 「ウェン、プロテクトに何が起こっているか、わかるか?」 「いや……わからない」 「ラムズが見えてて、お前が見えねぇのは問題だろ」 「…………………………」 「恥ずかしがってる場合じゃないだろ」 わかるけど! 他の隊員がいる……! が……プライドをとっている場合じゃない。 幸い、ギャラリーはラムズの戦いに釘付けになっている。 ウェンは、アシュラスからオーンを口移ししてもらった。 軽くチュッとしただけで、真眼の精度が上がる。 今までの、あの長々としたキスは……要らなかったのでは? 疑惑が湧いたが、まずは目の前の戦闘に集中した。 ヴィータのプロテクトがよく見えた。 ヴィータのプロテクトは法力と魔力が混ざり合っていた。 おそらく最初は法力だけだったのだろう。 ダメージと疲れで質が落ちてきているのだ。 ラムズは魔力で補われている箇所を狙って攻撃している。 「すごいなラムズ……」 自分で修行してこんなところまで来ている。 負けてはいられないと思った。 「なあ、ウェン。お前が童貞だと知ってからは、キスの仕方をソフトに変えてみたんだがどうだった?」 「あの口移し……最初の1秒くらいで本当は済んでるよね……なんか変だなとは思ってたんだ……」 段々と腹が立ってきた。 「まあ、そう興奮するなよ。俺だって最初からお前が童貞だとわかっていたら、優しくしたのに」 無駄な話をしているうちにヴィータは降参した。 ♢♢♢ この戦いの様子を見て、精霊使いジュリンと人形使いのトゥラは勝てそうにないと判断して、不戦敗を宣言した。 あとは戦士のフーゴだ。 戦闘が開始されると、早速フーゴの剣撃が炸裂する。 ラムズが避けた剣撃が後ろの木立を切り裂いていく。 フーゴは動きが素早い。 戦士というより、暗殺者に近いかもしれない。 ラムズの懐に飛び込み、足の先についたナイフも使って足技も使ってくる。 肉弾戦だ。 ラムズは刀で防御するが、不慣れな体術に戸惑いが出ている。 フーゴは短剣を取り出し、隙をついてラムズの腹部を刺した。 プロテクトはしているが、短剣の魔道具の質がよく、プロテクトを上回る鋭さでダメージを与えてくる。 ラムズは流れ出た血を、縄のようにしてフーゴの手を縛った。 「さすが、俺の血をひいている」 その隙にフーゴの腹部に一撃が入る。 フーゴはその場に膝をつき、降参した。 ♢♢♢ ラムズの見事な戦いに、歓声が上がった。 隊員の士気が上がっているのがわかる。 「基本の戦い方もできているし、変則技にも挑戦している。攻守のバランスもいいし……。恐れ入ったよ」 ウェンはため息をつきながら言った。 「お前から見たらどうなんだ?」 アッシュを見ると、大して驚きもせず、隊員の様子を見ている。 「まあ、いいんじゃないか」 「……自分の息子の活躍が嬉しくないのか?」 「それは、お前が嬉しいならそれでいいんじゃないか。育ての親に情が湧くのは当然だ」 一瞬、薄情だな、とは思ったが、もしかしたら、アッシュは戦場でのことを踏まえて戦力を評価しているのかもしれない。 本来、自分がそれをしなくてはならないが、やはり、ラムズには特別な思いがある。 客観的に……とはいかないし、それはアッシュも許してくれているようだ。 彼女たちはラムズを取り囲み、労いやら感動やらを伝えている。 こっちでゆっくりヒーリングいたしましょう、と言われ、ラムズは女の子たちに囲まれたまま行ってしまった。 これがハーレムってやつか? 「ラムズだからこの早さだ。他の隊員がどうなるか楽しみだな」 「ああ、本当に楽しみだ…。」 新しい隊の雰囲気に、ウェンも胸が躍った。
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