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ラムズの正体
ひだまりの小屋近くの、手合わせ用の草地に来た。
ギャラリーは、アッシュ、ルルシェ、シータ、トゥラ。
ウェン久々に鬼切丸を手にした。
鬼切丸は刀ではあるが、実際刃物ではない。
白い魔鉱石を磨いて、刀の様な見た目になっているだけだ。
白色もまだらで、まるで骨の様に見える。
修行を再開してから、鬼切丸の妖しい光を受け入れられるようになってきた。
変な言い方だが、鬼切丸と心が通じ合っている気がするのだ。
「お前ら、手加減し合うようなら俺がラムズをぶっ殺して終わりにするから、頑張らなくていいぞ」
アッシュが不機嫌に言う。
「どっちを望んでるんだよ……」
こちらが少しでも油断をしたらマズイくらい、ラムズはもう強い。
二人は向き合って、構えた。
♢♢♢
ふわっと風が吹いた。
―神速雷撃―
ラムズがあっという間に間合いを詰め、ウェンの首元めがけて剣が振るわれる。
躊躇ない太刀筋。
戦闘の時のラムズは本気の目をしていた。
ウェンは鬼切丸で受け止める。
―神速乱れ打ち―
ラムズから鋭くかなりの手数の剣撃が打ち込まれる。
これもウェンは鬼切丸で受けた。
「み、見えません!何をしているか……!」
シータがそう言うと、アッシュは黙ってシータにオーンを口移しした。
「あう……っ」
「よく見ておけ、お前の隊長はすごいぞ。ラムズはまあ、俺の遺伝子のおかげが100%だが」
♢♢♢
ラムズの剣技は洗練されているが、ちゃんと見切れている。
体の動きも手に取るようにわかり、次の攻撃も読める。
まるで、ラムズが自分の一部のように感じた。
―黒い炎―
ラムズはアッシュの魔法を剣にまとわせた。
ラムズが斬りかかると、四方からも黒い炎が襲いかかってくる。
―花吹雪―
ウェンの鬼切丸から生み出された花びらが舞い散り、黒い炎にまとわりつくと、炎は消滅した。
ラムズの剣を受け、吹き飛ばし、間合いをとる。
ウェンは、技を出す構えに入った。
ラムズも受け身をとり、技を受ける体勢を整える。
ウェンは呼吸を整えた。
法力を鬼切丸に流す。
鬼切丸の周りに、淡い光の玉が集まった。
―神の箱舟―
ウェンの鬼切丸は光と風をまとい、それらはラムズに向かって放たれた。
ラムズは剣撃を放って撃ち消そうとするが効かない。
プロテクトをはる。
が、プロテクトはゆっくり消滅した。
まばゆい光があたりに一面に広がる。
光が収まると、ひざまずいているラムズがいた。
そして、ラムズはゆっくり倒れた。
「ラムズ!」
ウェンは駆け寄り、ラムズの上半身を抱き上げた。
ラムズは眠っているようだ。
まるで、アッシュにヒーリングをした時、アッシュが眠ってしまったように。
眠っているラムズは、出会った頃のようにあどけなかった。
この表情を……俺はよく見ていた……。
ウェンの脳裏に、夢で見たアッシュとティスの幼い姿が思い出される。
ギャングに囲まれ、皆殺しにするアッシュ。
パンを分け合って喜ぶ二人。
初めて見る海にはしゃいでいるティスと、それを眺めるアッシュ。
森の中、フクロウが鳴き、星空の下で眠る二人……。
その寝顔が、今のラムズにそっくりなのだ。
親子だからでは、済まないくらいに似ている。
「……まさか、ラムズは……」
ラムズを抱きかかえ、じっとしているウェンを見て、アッシュは言った。
「ようやく気づいたか。やっぱりあいつはアホだな」
♢♢♢
ルルシェ、シータ、トゥラはラムズを救護室で休ませるために戻った。
ウェンとアッシュはひだまりの小屋に移動し、椅子に腰掛けた。
「アッシュ……ラムズは……お前の子じゃないんだな」
「そうだ」
「ラムズは、お前と……同一人物なんだな……?」
「ああ。俺の細胞を培養して作った。まあ、双子みたいなもんだよ」
「……何のために……」
「ティスは幼い頃の暴力で、片目を潰され、病気で皮膚がまだらになった。子どもも産めない。ラムズは、ティスが実験に実験を繰り返し、数え切れないほど失敗してようやくできた一体だ」
「………」
ティスの人生も凄惨だ。
言葉が出ない。
「ラムズを……どうするつもりなんだ?」
「はあ? どうするもこうするも、戦士なら使うが、お前が浮気する相手になるなら殺す」
アッシュはいつもの冷酷な顔で言った。
「ティスは、お前が好きで、お前の子どもがほしいからラムズを誕生させたんじゃないのか?」
「さあ、知らないな。きいたことないから」
「なんできかないんだよ。あれだけ苦楽を共にして、アッシュだって、ティスは特別な存在だろ?」
「だから、なんだ。俺たちの関係に、お前に説教される筋合いはない」
アッシュは鋭い目つきで言った。
「そうだけど……。もっと……みんなで仲良くできないのか? ティスは、なんだかんだでお前が好きなんだろうし、ティスにとってラムズは大切な存在ってことだろ?」
「俺にとってのラムズは、双子と同じだよ。ティスが俺やラムズをどう思っているかは知らん。俺はあいつが嫌い。それだけだ」
「…………」
なんでそこまで嫌うんだ。
もちろんアッシュが本気を出せば、ラムズはまだアッシュに勝てない。
だからこそ、もっとアッシュが大人になればいいのに……とウェンは思った。
「あいつが俺のコピーだと気づいたんなら教えてやるが、あいつは魂が不完全だから、話せないし感情が出ないんだ」
「そうなのか?!」
「ティスほどの力があっても、実験で完全な生命体を作るのは難しいんだよ。ただ、今から魂を完全にして、話せるようにすることはできる」
「え?」
「俺ならできる」
アッシュは重々しく言った。
「なら! ぜひやってほしいよ! 話せた方が訓練や実戦も当然楽だろう?」
もっと、ラムズが何を考えているのか、感じているのかが知りたい……!
「そうなんだけどさ、めちゃくちゃ疲れるんだよ、それやるの。少なからず、今の体力じゃ無理だ。お前のヒーリング次第だぞ」
「わかった……がんばるよ」
「まあ、それ以上にあのクソガキ相手に俺がやってあげなきゃいけないのがムカつくね。ヤル気が出ねぇ」
アッシュはため息をついて、そっぽを向いた。
そうかもしれないけど……。
「前々から思ってたんだが……そんなこともできるなんて、お前は、そもそも何なんだ? ドレイクからは、遺伝子情報を引き出せるから様々なことができると聞いていたが、それにしたって……」
アッシュは珍しく深呼吸をしてから言った。
「俺は、"宇宙の災厄"と呼ばれているが、正確には、"宇宙の災厄の落とし子"だ。元は人間だったが、宇宙の災厄によって、精神も肉体も情報を書き換えられた。まあ、人間の形をした宇宙の災厄だよ。だから、俺ならラムズの魂をいじることも可能だ」
ウェンは息を飲んだ。
「宇宙の災厄を倒すこと。それが俺の目的だ。大帝国を築いてきたのは宇宙の災厄との戦いに備えるため。そして、お前らを鍛えているのは、ヤツの次の目的地がこの姜王国だからだ」
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