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シータとアッシュ
またノックがされた。
出るとシータがいた。
「アッシュ様から、隊長の部屋で待つように言われまして。よろしいですか?」
「ああ、いいよ。ちょうどラムズもいるし」
シータを中に入れた。
「ラムズも、アッシュ様の……特訓を受けるの?」
シータは椅子にかけながら話しかけた。
ラムズは当然首をかしげる。
「どんな特訓か、シータは聞いてるの?」
「いえ、全く。その……正直に言えば、自分は戦場では足手まといなのはわかっているので、今更どうするんだろうと思うところがあります……」
シータは自嘲気味に言った。
「アッシュのことだから、その辺はちゃんとやってくれると思うよ。楽しみにしていていいんじゃないかな」
「わかりました。どんな特訓でも、やり遂げたいと思います」
シータは自分に言い聞かせるように言った。
間をあけることなく、「ウェン、入るぞ」と声が聞こえて、アッシュが入ってきた。
ラムズがいるのを見て、あからさまに冷たい目になる。
「なんでこいつがいるんだよ」
「ラムズは俺に用があったんだ。話は終わったから、大丈夫だよ。ラムズは……部屋に戻るかい?シータの特訓に興味があるなら、アッシュが良ければ見せてもらってもいいと思うけど」
ラムズは戸惑いの表情でウェンを見た。
夢の中のアッシュは、ラムズくらいの年の時にはもう自立していたように感じる。
もし、アッシュも困ったことがあったら、こんな表情をしたんだろうか。
だとして、その表情を見せれる相手なんていたんだろうか。
きっと、ティスにだって見せていないだろう。
「何見つめあってんだよ。見てるとイラつくから、お前は帰れ」
アッシュに先手を打たれてしまった。
「ラムズ、今日はそうしよう」
ラムズはアッシュを一度も見ることなくうなずいた。
こちらも、もうアッシュのことは嫌いなのだろう。
♢♢♢
ラムズが部屋を出て行ったあと、アッシュはウェンにきいた。
「何の用だったんだ?」
「ああ、結局、俺から話しただけになったんだけど、話せるようになりたいかきいたら、ラムズもそれは望んでいたよ」
「え! 本当ですか?! 俺もラムズとは話したいです!」
シータが嬉しそうに声をあげた。
「まあ、長々と見つめ合ってるところを見せつけられるよりは、しゃべらせた方が早いかもな」
「本当に?! やってくれるのか?!」
案外、あっさりアッシュが引き受けてくれそうになって驚いた。
「ただ、俺はまだ本調子じゃない。スタジアムでお前に殺されかけてからまだ四割しか回復してないからな」
「いや、言い方。まだ根に持ってるのかよ……」
「事実だろ?これからシータにもオーンを分けていくんだ。それを上回る回復が無いと、いつまでラムズに処置はできない。お前の法力によるヒーリングを本格的にやってもらう必要があるよ」
「……わかった。それについては頑張るよ」
ラムズが話せるようになったら、どんな会話になるんだろう……。
まだ何もしていないが、楽しみだった。
「じゃあ、その方向で。今はシータが主役だ。まず、なぜシータを選んだかを話そう」
アッシュは、ベッドのふちに、足を組んで座った。
「他の隊員は、腕力や魔力を使った戦闘に慣れ過ぎていて、オーンを使った戦闘に切り替えるのに時間がかかる。元々オーンを使っていたのはトトくらいだ。あいつは学びが早いから、自分で精度をあげてもらう。シータが一番切り替えに早いから、まずは……というところだ」
シータはうなずいた。
「俺のオーンを分けてやると、最初は異物として感じる。その分、自分の中のオーンや魔力がどんな動きをしているかわかりやすくなるから、その間に意識的に修行をしてくれ。分けられたオーンが多くなってくると、自分のオーンと混ざり合って、オーンの質が変わってくる。こうなると、修行の内容も変えていく必要が出てくる」
「自分のオーンも変わっちゃうんですね」
「ああ。俺のオーンは特別だから、より影響は大きいよ」
アッシュは、宇宙の災厄の力を持っているんだ。
それの力が入ってくるのだから、すごいことになるだろう。
「わかりました……。よろしくお願いします!」
シータは緊張した面持ちで言った。
「よし、じゃあまず見本をみせよう。ウェン、俺の隣に座れ」
「……え?見本って……?」
「いつもやってるだろう」
ま、まさか、シータの前でキスしなきゃいけないんだろうか。
「早くしろよ」
断じて……不純な行為ではない。
強くなるために必要なのだ。
ウェンはアッシュの横に座った。
シータが真剣にこちらを見ている。
そんなまじまじと見ないで……
アッシュがウェンの後頭部を押さえて、キスを始めた。
シータから「え?」という声が漏れた気がする。
……
…………
………………
大分、長めだった。
終わって離れるが、恥ずかしくてシータが見れない。
「こういうことだ」
「……今日の、ラムズの手合わせで一度軽くキスをしてもらいましたが、そういうことだったんですね……」
「そうだ。じゃあ、交代してくれ」
ウェンはよろよろと立ち上がった。
シータは別の意味で緊張した面持ちだ。
シータがアッシュの横に座った。
「力むなよ」
「は、はい……!」
アッシュはまずシータの唇に親指を添えた。
親指が唇をなぞり、シータの口に入ろうとする。
「んっ……」
シータは自然と親指をはむ形になった。
シータの目が徐々にとろんとなってくる。
アッシュの親指を唇で愛撫し、チュッ……と音が立った。
アッシュは、シータの顔を自分に引き寄せ、オーンの口移しを始めた。
お互い、目をつむって、唇をはみ、舐めている。
部屋に、チュッ……チュッ……とキスの音が響く。
俺は……
どうしたらいいんだ……
俺もあんな風に見えていたかと思うと恥ずかしいし、シータがしているところを見るのも恥ずかしい。
で、これからおいおい、アッシュの役を自分がやるのかと思うと、想像がつかない。
他に方法はないんだろうか……。
「……終わったぞ」
アッシュがそう言ったので、見るとシータは眠っていて、ベッドに横たわっていた。
「少し様子見が必要だから、シータはこのままここに寝かせよう」
「わかったよ……」
アッシュがシータをじっと見ている。
愛情……なのか、戦闘要員としてしか見ていないのかはわからない。
「……なんだよ、羨ましいならもう一度やってやるけど?」
見ていたことに気づいたアッシュが言った。
「い、いや、結構です! 俺はソファに寝るから、アッシュはシータとベッド使って……」
ウェンはそそくさと寝支度をした。
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