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 ぶつくさとこぼしながら、母さんは後ろ手で玄関の扉を閉めた。ガチャ、と鍵が鳴る。 「……は?」  どういう事だ?  帰りなさい、もなにも、僕の家はここなんだけど……。  一度門扉を出て、家族の名前が連名で記された表札を確認する。  岩井と書かれた苗字の下に、両親の名である、晴夫と靖子が記され、その下に……。  あれ? 「僕の名前、"翔太(しょうた)"がない」  こんなの、おかしい。いつもここにちゃんと名前が。 「っあ、おい! 悠真!」  多分塾帰りだろう。近所に住む佐藤 悠真が通りかかり、僕は慌ててその背を呼び止めた。 「参ったよ、何の罰か母さんに家追い出されちゃってさ」 「何だよお前、誰だよ??」 「……え」  悠真は警戒心むき出しの顔で僕を拒絶し、早足で家へと駆けていった。 「誰、って」  その瞬間。  "僕"をつくり上げてきた土台そのものが、ガラガラと音を立てて崩れ落ちた。  《了》
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