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その日、僕は本当にのん気だったと思う。
「ねぇ、覚えてる? 五年前の今日、二人で祠に行ってお願いしたの……」
「え……」
学校の正門を抜けたところで、幼馴染の里帆が憂鬱そうに切り出した。
珍しく里帆から「一緒に帰ろう」と声を掛けられ、僕は舞い上がったのだが、彼女は判決を待つ被告人のように、暗い表情で俯いていた。
「いや。あんまり覚えてないけど」
歩幅の小さい里帆に合わせながら歩いていると、中学の制服を着たクラスメイトが僕と里帆を追い越し、いかにもな目つきでにやついた。
僕が好きな子と一緒に帰っているからだろう。明日にも教室で冷やかされるのが目に浮かんだ。
「小三の七月二日に私と翔くんで行ったんだよ。海の近くにある護念祠。今からそこに行こうと思うの」
「へ?」
俯きながらも淡々とした口調で里帆が言い、僕は間の抜けた返事をもらした。
「今から行くって、制服のままで?」
「そう。あのとき書いた願いがちゃんと叶ったかどうか、確認しに行くの」
顔を上げた里帆と目が合った。強い意志をはらんだその瞳に、僕は「うん」と頷くしかなかった。
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