第一話

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第一話

  −−もしこの世に天帝と言う者がいるのなら、とうの昔にこの王達の治政を嘆き見切りをつけていただろう。  東方に『春の國』。西方に『夏の國』  互いに肥沃で広大な平地を持ち、山河山水緑豊かな富を国を与えておきながら、住まう者には殺戮と恐怖と飢えしか許されないなど、馬鹿げている。  しかし、それが現実なのだから目も当てられない。  隣の芝生は青く見える。  誰が言い出したのか、言い得て妙である。  互いに互いの国の豊かさを妬み嫉み、奪ってやろうと戦いに明け暮れ早千年。  いつしか国は血と涙で穢れ、天帝とやらが住まう北の最果ての天泣宮(てんきゅうぐう)と呼ばれる山門から国土を覆う大海を渡り、妖魔(ようま)と名付けられた異形が飛来し国を跋扈。  民子を攫って行くようになった。  餌になって喰われたか、はたまた境遇を哀れんだ天帝の慈悲の使者か。  分からないが、1人減ったら2人増やせば良い。    そうして雪だるま式に増えた民子を束ねる一握りの王族…  東は『春日(かすが)』。  西は『月夏(げっか)』。  千年続いた怨念の系譜に、新たな王の戴冠を告げる玉音が木霊する。    −−春日に就元(なりもと)月夏に千景(せんけい)。  −−即位。   と…    −−果たして。  北が天帝の棲む宮なら、南に住まうのは地仙(ちせん)巫族(ふぞく)(やしろ)。  此れ即ち海神(わだつみ)の里。  南の島…『海護(うみもり)』達の住まう、穢れ無き聖域である。
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