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優しい仲間に囲まれている
「あー、月華ずるい! また毬也にくっついてる!」
月華が僕を抱きしめたまま、ごろごろと喉を鳴らしていると、栗鼠獣人の十六夜が頬を膨らませながら現れた。
十六夜も蕾仲間で、僕と同じ十七歳だ。
「だったらなんだよ」
「ほら! そうやってペロペロもするし! ずるいぞ、月華」
僕を抱きしめる月華の腕の力が強くなる。耳を舐めてきて、十六夜に見せつけるみたいにする。
これは猫のアログルーミングってやつだと思う。
夢幻楼に落ちてきた日、僕を守ると言ってくれた月華は僕を弟分のように思っているようだから、事あるごとに舐めるのは仲間意識の現れだろう。
「うるさい、毬也は俺のだからいいの」
ほら、ね。猫って所有欲も強いから。
でも他の子にはしないのに、僕にだけそうしてくれるのは嬉しい。元の世界では兄に嫌われ、親しい友達もいなかった僕だもの。
月華は僕にとって兄貴分であり親友だ。
「最初に毬也を見つけたのは月華だけど、大輪に一緒にお願いして、楼主様に許可をもらったときは僕も日向もいただろ!」
大輪というのは遊郭の一番の売れっ子のことで、楼主様は遊郭の持ち主のことだ。
「そうだぞ、月華。毬也を独占するな」
ご飯を食べてもいないのに、栗鼠ほっぺを膨らませながら十六夜が対抗していると、また別の声がした。
「日向。日向も湯殿当番終わった?」
月華に抱かれたまま顔だけで振り向くと、黒犬獣人の日向が立っていた。
「ああ。仕事が終わったら東雲大輪が部屋においで、って。ご褒美があるってさ」
日向は月華と同じ十八歳。僕たち四人は同じ大輪に仕える蕾仲間だ。
「わあ。ご褒美、嬉しいね!」
「はは。毬也はいつまでも無垢でかわいいな」
大人っぽく、いつもクールな表情の日向が優しく笑ってそばに来て、肩までの長さの僕の後ろ髪を割ってうなじをべろり。
「んんっ、日向、くすぐったいよ!」
犬だからか、日向もたまに僕を舐めてくる。
「やめろよ! 毬也に触んな」
「日向までずるい! 僕もする!」
月華が牽制して僕を抱き込み、十六夜は僕の指をかわいい小さな舌で舐めて「やっぱり毬也のつるつるの肌は甘くておいしい~」と言い出し、日向は「毬也の細い黒髪はさらさらしてて気持ちいい」と、鼻先を髪にこすりつけてくる。
「あははは。やめて、やめて。苦しいし、くすぐったいよ!」
僕はもう、もみくちゃだ。
でも、実際のところとても嬉しい。蕾仲間は……月華は特に、誰にも愛されなかった僕を好きだと言って仲良くしてくれる。
異世界の遊郭生活なんて不安しかなかったのに、今はここに落ちてくることができて、本当によかったと思う。
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