獣化

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「許さない……」  ギリ、と犬歯を噛みしめる音がした。月華の表情は怒りに満ちていた。格下の、お客様も付いていない僕の口答えに怒っているんだろう。 「く、口答えは謝ります! でも、ちゃんとやりますから! 一人前の花になって、月華さんにも認めてもら……ん、んんっ!」  顎を上げ、目を見て言ったときだった。壁に付いていた手で両手首を押さえられ、唇を塞がれた。 「んーんー!」  思いも寄らない出来事に驚き、手足をバタつかせても、月華はびくともしない。  唇を塞がれたまま、片方の手で両手を固定され頭の上に上げられる。もう一本の手は僕の着物の帯にかかった。 「ぁ……っん!」  帯はシュルリと簡単にほどかれ、さっきまでの月華と反対に、僕の肌があらわになる。肉球のあるしっとりと柔らかい手のひらでかすかに胸を撫でられ、指先で胸の先を挟まれた。 「うぅ、ぅんっ……」   胸が甘く痺れる感覚に、締めていた唇が開いて変な声が出てしまう。  その隙間から月華の舌が侵入し、僕の口の中を舐め、舌を絡め取る。  月華の舌や唾液は熱く、そしてどこか甘く、僕の口の中も頭もふやけてしまいそうになる。  どうして……怖いはずなのに、どうしてこんなに気持ちよく感じちゃうんだろう。  ……ああそうか、月華は売れっ子の花だから。キスひとつ、指使いひとつでお客様を悦ばせる技術を持っている。  だから僕にやってみせて、「お前には到底できないだろう」としらしめようとしているのか。  「……こういうことを、知らない男にされるのに、平気だって言うのか?」 「あ……ぁ……」  力が抜けて膝がガクガクする。それなのに下腹は疼いて、体の中心が硬く兆してしまい、僕は太ももをすり合わせた。 「へぇ……感じてるのか? じゃあ、こんなことも、平気なんだな?」 「あ、あぁ!」  胸の先をいじっていた手で下帯の中を探られ、芯となったそこを握りこまれる。先端にぬるぬるとした感触があり、広げ塗るように指を動かされる。 「や、嫌、嫌……」  言葉とは裏腹に逃げられない。怖さもある。けれどそれよりも、初めて感じる「快感」の波が押し寄せてきて、まったく力が入らない。 「う、うう……」  恥ずかしさと快感で目に膜が張り、涙となって瞼の堤防を越える。何粒も、何粒も。 「毬也……」  名を呼ばれる。ぺろ、と舌で涙を拭われる。その瞬間、僕は達してしまった。  ────ざらついた舌の感触が、泣きたくなるほどお腹に響いたから。  月華の声が、とても、とても優しく聞こえたから。  そしてそのまま、僕は吐精の疲労で意識を飛ばしてしまった。
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