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雄々しい美しさに見とれて、力が抜けた体を押し倒される。
さっきと体勢が逆転した。白虎になった月華がグルル……と喉を鳴らして僕を見下ろす。じゃれるときとは違う重く低い音だった。
「頼むから、無防備に、なるな……。ぐっ……、もう毬也を、怖がらせたくないんだ」
言葉は話せるようで、喉を鳴らす合間に絞り出すように言った。
「怖がる? 僕は月華を怖いと思ったりしない!」
「怖がったよ! ……毬也が褥を初めて見て寝込んだとき、お前は俺を怖がった」
褥を初めて見た夜?
あの夜、二人で寝そべっていたら、月華の声が耳の中に入ってきて、指が襟から胸に入り、尻尾が裾の中に入って……。
思い出すと背中がぞくぞくっとして、収まりかけた熱が再び昂るのを感じた。
「あれは……違う。月華が怖かったんじゃない。月華が僕にそんなことするわけないのに、大輪の褥と重なって、驚いただけだ」
初めて見た褥は生々しくて、子供だった僕には衝撃が多すぎたんだ。でも今の僕は、もう一度あんなふうに触れてほしいと思ってる。
──月華に、触れてほしい。
──他の誰でもなく、僕だけに触れてほしい。
「そんなことを、しようとしたんだよ」
「え?」
「俺はあのとき、毬也の肌に触れたかった。毬也の中に入りたいと、浅ましく思ってた……」
僕の手首を押さえる獣の手を引き、背中を向けた。少しずつ人型に戻っていく。
「物入れで、たまらず口づけして体に触れたときもそうだ。誰にも触らせないようずっと邪魔してきたのに、お前が他の男に抱かれてもいいなんて言うから無性に腹が立って。それにちょっと触っただけで反応して、毬也は誰に触れられてもこうなるのかと思うと自分を抑えられなくて、全部奪ってやろうと思った。俺がお前の最初の男になりたかった。でも、お前はぶるぶる震えて泣いて、最後には気を失った。だから最後までできなかった……よほど苦痛だったんだろ? あのとき、ひどいことして、ごめん」
「違う。それも違うんだ。僕は……」
あのとき、嘘みたいに感じてた。怖かったはずなのに体じゅうに快感が広がって、それで体を震わせていたんだ。
今ならわかる。あれをもし他の人にされていたら、泣き叫んで抵抗したと思う。でもそうならなかったのは、すぐに達してしまったのは……。
──月華が好きだからだ。
触れてほしいと思うのも、触れられて昂ってしまうのも、親愛の「好き」だからじゃない。
僕は、月華を恋の対象として好きなんだ……!
「気を遣ってくれなくていい。毬也が俺を兄弟のようにしか見ていないのはわかってる。でも俺は……」
ゆっくりと月華が振り向く。いたずらを叱られた子供のようにしゅんとした表情で、耳も倒れていた。
けれど月華は胸に手を当て深呼吸をすると、今度は男らしい引き締まった表情をして、僕をまっすぐに見つめた。
「俺は子供の頃から、出会ったときから今でも、毬也を恋の対象として好きだ」
「月華……!」
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