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プロローグ ~リエラの風~
ラベンダーの香りが、開け放たれた窓から部屋に流れ込んでくる。微かな風に乗って届くこの香りが好きだった。
五階建ての小さな塔の最上階からは、遠くに広がるなだらかな丘も、薄紫に染まって見える。
美しい、と心から思えた。
そして、窓辺に佇む母の姿も……。
絹糸のような細くて長いプラチナブロンドの髪を、風が戯れに揺らしている。窓から差し込む暖かな光が、陶器のようになめらかな肌を映し出していく。まるで汚れを知らない無垢な天使の翼のように白いその肌は、母を神聖なものに変えていくみたいでドキリとした。
「リエラ……」
後ろに立っていた父が息を呑むように母の名を呼ぶと、窓外のどこか遠くをぼんやりとみつめていた若葉色の瞳が、ゆっくりとこちらに向けられる。
スローモーションのように、リエラが優しく微笑む。
淡いコスモスの花のように軽やかな薄布のドレスが、リエラの動きに合わせてふわりと波打つ。
「トリーシャ、こっちへ来て」
小首を傾げるようにして、リエラが手招きをする。その瞬間、窓から風が吹き込み、プラチナブロンドの髪が輝くように広がった。
美しかった。清楚なまでに輝くリエラの姿に、目を奪われる。
そばまで行くと、いつもみたいに優しく抱き留めてくれた。
この温もりも、微かな花のような芳香も、いつもの母のものなのに、この場所に佇むリエラはどこか清らかで、気安く触れてはいけないような気持ちにさせる。
もし汚れた手で触れたなら、そのまま消えてしまいそうで怖かった。
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