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「嘘でしょ? そんなことって」
「あるんですよ実際」
医者が女の言葉を引き継ぐ。
「経過を見るに若木まで成長していますね。お腹が減り続ける原因は、やはりカロリーを奪っているこいつのようです」
「ちなみに放っておくとどうなるの?」
「このままだと根は腸全体に張り巡らされていき、胃を埋め尽すほどの葉が茂るでしょう」
つまり。と医者は続ける。
「内側からイチョウに栄養を吸い付くされ、最悪死に至ります」
医者の宣告に女が青ざめた。椅子から転げ落ちそうになる女を慌てて医者が支える。
「大丈夫ですか?」
「一体どうすれば」
「気をしっかり持ってください。上手に付き合えばこの症状にはメリットもありますから」
女が面を上げる。
「そうなの?」
医者は頷いた。
「まず、体内が常に新鮮な酸素で満たされるようになります。これはリラックス効果が期待できて美容にも繋がるでしょう。それにイチョウは大木にまで成長するとギンナンが実ります。直接腸に栄養満点のギンナンが供給され続ければ、その後は一切食事は不要。お金の節約にもなるわけです」
女の瞳に希望の灯が宿る。
「何よ。むしろ良いことずくめじゃない」
「ただし」
医者は念を押した。
「イチョウの成長が安定するまでは特に注意が必要です。引き続き倍の量を食べることはもちろん、気持ちを前向きに保たないといけません」
「食事は分かるけどメンタルまで?」
「暗い臓器内では心の光が光合成の源になるのです」
「なるほど」
「どうされますか? 開腹手術で取り出すという方法もありますが」
訊ねる医者の目を女は真っ直ぐに見据えた。
「このまま様子を見ることにするわ」
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