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「その後、具合はどうですか?」
医者は向かいに座る女に訊ねた。女は返事もせずに俯いている。
「あの、よろしいですか?」
「あらやだ私ったら。ごめんなさいね」
「いえいえ。体調の方は大丈夫ですか?」
「はい。おかげさまで」
女は自分の丸いお腹を優しく撫でた。
「今のところ何の問題も」
女が言い終える前に、
『グー』
という音が診察室に響き渡る。
「ないかな……ここ最近腹の虫はよく鳴るけど」
「そればかりは仕方ありませんね。改めてこれが今のイチョウの様子です」
医者から数枚の内視鏡写真を手渡され、女は目を細めた。胃の中では直立する立派な幹が重なり合う葉を広げ、太く黒々とした根が縦横無尽に腸壁を横切っている。
「こんなに大きくなってるだなんて……」
「驚かれるのも無理はありません」
口元を覆う女に医者は穏やかな声を出した。
「胃腸と結合したイチョウの成長は早いんです。ショックだとは思いますが、まずは現状を受け入れて」
「かわいい」
「えっ?」
話を遮られた医者が戸惑う。
「かわいい、とおっしゃいましたか?」
「だってそうでしょう?」
女が目を輝かせた。
「自分のお腹に宿る命……これってまるで赤ちゃんができたみたい。そうは思わない?」
身を乗り出す女に医者はのけ反る。
「まぁ、捉え方によってはそうなりますかね」
「やっぱりそうよね!」
女は握り拳を固めた。
「私頑張る。この子が元気に育つようベストを尽くすわ!」
「……ご無理だけはなさりませんように」
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