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※
さらに月日が流れ、再び女は医者の診察を受けていた。
「あれから胃腸に優しいものを心がけているの。ヨーグルトに白湯でしょ。あと他には……」
「ははぁ。なるほど。そうですか」
適当な相槌を繰り返す医者に女は眉根を寄せる。
「ちょっと先生聞いてるの?」
医者は慌てて顔を上げた。
「もちろん聞いてますよ」
「で、どうなの?」
「どう、と申しますと?」
「決まってるじゃない」
女が頬を紅く染め、
「私の、あ、か、ちゃ、ん」
ウィンクをした。直後、医者が椅子から立ち上がった。
「急に驚かさないでよ。お腹の子に障ったらどうするの!?」
「これは失礼。私としたことがうっかり別の患者の内視鏡写真を見ていたようでして」
頭を掻く医者に女がため息をつく。
「信じられない。あなたそれでも医者なの? これからって時なんだからしっかりしてよね」
女が口を尖らせる。
「すみません。すぐに戻りますので」
別室に入ると医者は頭を抱えた。
「なぜだ? これはどういうことなんだ」
医者は女の内視鏡写真に目を落とす。胃を満たしていた枝葉はおろか、腸壁全体に伸びていたはずの根っこまでキレイさっぱりなくなっていた。
「あれほど大きく育っていたイチョウが一体どこへ」
『グルルー!!』
医者の言葉をかき消すかのように鳴った大きな音。 医者は診察室がある方向を振り返り見た。
「まさか飢えた腹の虫がイチョウを平らげてしまったとでも……?」
「先生ー!? この子に早くご飯をあげなきゃいけないから急いでよねー!」
続けて聞こえてくる女の大声に、
「元々お腹が大きかったから変化に気づけなかったわけか」
医者は腹を押さえて顔を歪めた。
「さてあのヒステリック患者にはどう伝えたものかな」
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