ねがい屋

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 その時、真琴の視界に可憐な少女が映った。その少女も誰かを待っているように大桜の下に立って、あたりを伺っていた。  桃色の振袖にオレンジ色で大きな菊が刺繍されている。その周りにも小さい花がその菊を引き立てるように描かれていた。  どこか現実とはかけ離れたような、美しさがあった。 (……まさかね)  自分の探している彼女を思い浮かべて、真琴は頭を振った。  確かに言われた条件は合っているが、まだ確証がない。確証が得られないうちは容易に話しかけられなかった。それに相手にも真琴のことは知られているはずなので、真琴を見つければ話しかけてくる可能性が高い。  しばらく待って、太陽がほぼ頂点に差し掛かるお昼十二時。待ち合わせの時間になったがまだ彼女は来ない。そのかわりに、人はさらに増えてきた。大学生や家族連れ、仕事仲間、老夫婦など、様々な世代が入り混じっている。  真琴はまだ樹の下に立っているが、少し邪魔だと思われているようだ。シートを広げようとすると真琴の足元にかかってしまいずらす、という行為を何度か受けた。真琴も邪魔にならないよう、少しずつずれていった。 「す、すみません……」  その声に隣を見れば、あの振袖姿の彼女だった。同じようにシートを広げる男子大学生から避けて、真琴の方へ近づいた。真琴の方は避けてくれる人が多かったが、彼女はそうもいかなかったらしい。 (まあこんな所にただ佇んでいるだけっていうのは邪魔なんだろうな。……でも私だってここにいなきゃならない理由があるんだもの)  仕事で来ている真琴は動かなかった。カーディガンの袖口をめくり、腕時計を確認する。集合の時間を十分近く過ぎていた。
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