0人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
おもむろに先程シートを引いた男子大学生の一人が立ち上がると踊りだした。顔は火照ったように赤く、足元にはビールの缶が置かれている。酔っぱらっているようだ。
これだから酔っぱらいは……と、真琴が場所を変えようと動こうとした。その時、その酔っぱらいがたたらを踏む様によろけた。危ないと思ったのも束の間、その男は振袖の彼女の方へ倒れた。
真琴は脳内で数十万もする振袖が土に汚れる所や男の下に潰されるようにして倒れている少女を想像した。
しかし現実は違った。
確かに男は倒れていた。それも、彼女の上に。しかし男に少女を気にする様子は無く、ゴロゴロと転がってブルーシートの上へ戻っていった。
真琴は見た。少女の腕と男の頭は重なっていた。
(ああ……じゃあやっぱりこの子が……)
真琴はまだ転んだままの少女に手を差し伸べた。
「あなたがチヒロさんですね。私は芦原真琴です」
小声で真琴が告げると、少女は目を見開いて真琴を見た。そのまま少女はおずおずとその手を取り、立ち上がった。
「シートを敷いてあるので向こうまで行きましょう」
こくんと少女はうなづき、歩き出す。それは普段から着物を着慣れている人の歩き方だった。
真琴の敷いたブルーシートまで着くと、周りの人のブルーシートが侵食を始めていた。荷物はあったが人がいなかったので無理もない。真琴は側に靴を脱いでブルーシートの上に座った。
少女も同じように草履を脱ぎ、ブルーシートの上に座る。すると緊張が解けたのか彼女は軽く息をついた。そのまま真琴の方へ向いて頭を下げた。
「雛形千尋です。短い時間ですが、どうぞよろしくお願いします」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
真琴も軽く頭を下げた。
最初のコメントを投稿しよう!