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理由
あなたはカンナの思った通り、サブロウの死亡退職金を半分よこせと言ってきたのだった。
カンナは、
「他の女性達はそんな申し出をしてきていないし、あなたにだけサブロウの死亡退職金を渡さなければいけない理由はない。」
とはっきりと断った。
あなたは、
「奥さんがお相手できない分、私が一番長くお相手していたのよ。まぁ、結局子供はできなかったんだけど。途中で調べたらサブロウさんに子種がなかったのよね。だから、若い女たちをさらに囲って、もう、子供の心配はないからと遊び惚けていたわけよね。
そもそも、奥さんはサブロウさんのお相手をしたがらなかったそうじゃないの。妻の務めを果たしていないんだから、その代わりをした私が退職金を半分貰ってもおかしくないわよね。」
と、恥ずかしげもなくカンナに言った。
カンナは薄々は思っていたけれど、サブロウは自分には内緒で検査をして、子供ができないのはカンナのせいではないと知っていたのに、それを盾に次々と女たちを囲っていたという事実を聞かされて、ショックを受けた。
それまで、カンナにも何か原因があるのかもしれないと、サブロウの浮気を見逃してきたのに、あなたはその事実をうち破ってサブロウが恥ずかしげもなく堂々と浮気をしてきたことや、自分に子種がなかったことをサブロウ本人がカンナに言わなかったのに、自分のやり方で勝手に話して押し付けてきたのだ。
あげく、それだからサブロウの金をもらうのは当然だと言う。
そのうえ、これまで囲って貰っていたマンションもこれから自分がお金を払うのは無理だから、この家に一緒に住みますからね。と言ったのだ。
どうりで大きな荷物を持ってきている。
あなたは、
『サブロウさんが、俺が死んだらカンナは生家に帰るつもりみたいだから寂しくないように友達になってやってくれ。と言った。』
とまで言うのだ。
あまりのショックでしばし呆然としていたカンナは、あなたが自分の生家で勝手にお茶を淹れだしたことに気が付いた。
サブロウと住んでいたマンションだったら、そこまでの気持ちにはならなかったかもしれない。
でも、ここはカンナの生家である。
サブロウの囲っていた女が好き勝手して良い場所ではない。
あなたが勝手に入れて、勝手に客間に持って来たお茶を、カンナの前にも出し、
「お客が来てもお茶も出せないんだから。これからは私がいろいろ手伝ってあげるわよ。もう会社も辞めてきちゃったし。」
と、もう、この家に住むことをカンナが了承したような口ぶりで話した。
「ここに来ることは誰かに言ったの?」
カンナはできるだけ平静を装ってあなたに聞いた。
「私は身寄りもないし、サブロウさんだけが頼りだったのよ。だからここに来ることを言う人なんていないわよ。」
そう言って、ゆっくりとお茶を飲み、サブロウとの思い出話を続けた。
カンナは
「じゃ、悪いけれど、お片付けもお願いしていいかしら。手続した死亡退職金がいくらあるのか確認しておくわ。」
カンナはそう言って、お茶の片づけをおあなたに頼んだ。
住むこともすべて了承してもらったと勘違いしているあなたは笑顔でお茶を片付け始めた。
無防備に流しの方をむいて洗い物をしているあなたに、カンナは生家の床の間にあった真鍮製の重い花瓶をもって近づき、頭に思いきり打ち付けた。
あなたは、突然の事に驚いた様子だったが、ぐにゃりと膝が折れて気を失った。
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