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あなたを消した理由
『ザクッザクッザクッザクッ・・・・』
あなたの耳に土を掘る音が聞こえる。身体は後ろ手に縛られていて動かないし、頭がガンガンする。口には猿轡がされていて、叫んでもくぐもった声しか出ない。
カンナの生家の庭は南面に一つ。そして、目立たない東側にも道路に沿って塀が建てられている部分に幅1m程の地面が5m程開いていた。
以前は蔓薔薇が植えられていて春から夏の間綺麗に花を咲かせていたが、母が亡くなる少し前に蔓薔薇を全部植木屋に掘り起こしてもらっていたのだ。
道路にまではみ出してしまう蔓薔薇を、これまでは父が剪定していたが、母には無理だという理由からだった。
「あら、やっぱり。」
突然カンナが言葉を発したので、あなたはカンナの方を恐ろし気に見やった。
カンナが掘り起こした地面にはすっかり骨になった人骨が散らばっていたがあなたには見えなかっただろう。
「お父さんも女を囲っていたのよねぇ。たしか、お父さんが死んだあと、お母さんがそんな愚痴を言っていたわ。私と違って、お母さんはお父さんの浮気に気付いていなかったから、そりゃ、お父さんが死んで直ぐに囲っていた女が家に来たら驚くし、腹も立つわよねぇ。その後は愚痴もなかったからこんな事じゃないかと思ったわ。お母さんは昔から常識を逸した行動を許す人じゃなかったからね。
あぁ、でも、埋めちゃったってことはお母さんでもカッとすると常軌を逸した行動をとるってことよね。
まぁ、母子だから考える事はやっぱり似ているのね。
母のおかげで土が柔らかくて助かったわ。」
あなたは、これから自分に起きることに予想がついて、もがき始めた。
「安心して。生き埋めになんてしないわ。いくらなんでもそんなにひどいことはできないから。
でもね、わかってほしいの。あなたは自分で働いていたから貯金もあるでしょうけど、私には親の残してくれたお金と、夫の退職金しかないのよ。
あなたがそれをほしがるのなら消えてもらわなければね。
大丈夫よ。私が死ぬまではこの家を誰にも売らないから同居しているのと一緒でしょう?寂しくないわ。」
カンナは軍手をして穴を掘っていた。もう、外は暗く、住宅道路には通りかかる人もない。
あなたの頭の上に少し太めの紐が置いてあった。
「たぶん、お母さんもこの紐で締めたのね。荷造り用のひもじゃ人は締めづらいものね。物置にあったわ。」
そして、おもむろにその紐を取るとあなたの首を絞め始めた。軍手のおかげで指紋もつかないし紐も締めやすい。
あなたは最初さえ苦しかったけれど、頭の痛みと共に、苦しさも薄れていった。自分が消される理由は、自分の欲の為だとわかってはいたが、まさかこんなことになるとは思ってもいなかった。
『あぁ、冗談だったのに。ちょっと奥さんをからかおうと思っただけなのに。私もサブロウさんの死をきっかけに会社を辞めて誰もいない生家に帰ろうとしていたのに・・・退職金の事なんて口にしなければよかった。』
もう、言い訳をすることもできないあなたは静かに息を引き取った。
カンナは汗を拭きながら、あなたを十分に深く掘った穴に埋めた。
『ザッザッザッザッ・・・・』
土を埋め戻す音が静かな住宅街に響いた。
【了】
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