1 ピリオド

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 彼女が初めて絵を描いたのは三歳の時だった。親に買い与えられたクレヨンを画用紙に乱雑に擦り付ける落書きの類の絵だった。幼稚園に入ると人の顔を先生に教えられながら描けるようになり、そうやって歳を重ねる内に少しずつ上達していった。憧れを見つけては模写を繰り返し、花瓶に水を与えるように自身の欲を満たしていく日常。パースや色遣いを覚えながら一歩ずつ歩みを進めて行った。 「……この絵師さん、可愛いイラスト描くなあ」  中学生になった頃には幾つかのコンテストで入賞する位には上達していた彼女は、模写を続ける傍らでインターネットの海にイラストを投稿するようになった。フォローは気に入った絵師の人だけ行い、後は一週間に一枚を目標に描き上げていく。絵師の神絵が流れてくるとモチベーションが上がり、休めていた手を動かさなければと焦る。  絵師として活動を続けていく内に自分の趣味嗜好を混ぜ合わせた理想を頭で想い始めた。それが嫋やかな黒髪を靡かせる女性をこの世に生み出した。名前は近くの寺で咲き誇っていた花の名前から取ってフジと名付けた。その紫の花から醸し出させる香りと色が彼女は大好きだったのだ。 「可愛すぎる〜!! 尊い〜!!」  出来上がったイラストに自画自賛の独り言を投げかける。返答は当然返ってこない。  当時の数少ないフォロワーに気に入られ、もっとこのキャラクターの絵を描いて欲しいと要望された彼女は、嬉々として絵を描き続けた。  もっとこの可愛さを知って欲しい。  誰かの心に抜けない棘として刺さり続けて欲しい。  欲望が溢れ出てはフジの喜怒哀楽を様々な彩色で丹念に彩り続けた。花瓶に水が入っていき、根っこから満たされていく感覚を覚えながら、ゆっくりと。
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