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歯車が壊れ始めたのは、中学三年の夏だった。
フジのイラストが投稿欄を埋め尽くしていた。カフェで猫と戯れる姿も水族館でその白いワンピースに海月が反射して模様になる姿も、等しく彼女の好みから創出された物だった。受験勉強の都合で描く速度は低下気味だったが、それが却ってイラストの粗悪な部分を見つける為の確認時間になり、品質の向上に繋がっていた。
「栞のデザイン、やっぱり藤の花にしようかな」
「アリだけど今回の背景って民間プールでしょ? 瑞々しい緑とかも映えそうだけど」
「ああそれもアリだなあ……両方描くか!」
有美の部屋で『勉強会』と称した絵描きが行われていた。誕生日の日に親に買い与えられたデッサン人形を二人捏ねくり回し、最適な形を探し求める。コンビニで購入したオレンジジュースとプレーン味のバームクーヘンが机の角で纏められている。有美は余所見しながら手を伸ばして取ろうとしてそれらを落としてしまい、ストローの先端から勢い良くジュースが流れ落ちる。
「カーペット汚れちゃう! でも描くのやめられねえ……架純ちゃんどうしよう!」
「ペンを置くと良いと思うよ」
冷静なツッコミが入る。
分厚いレンズの奥で瞬く森園架純は、有美の創作活動を三次元の世界で知る唯一の存在だった。
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