潜入

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 武蔵と月野が片陰の街に潜入して 1週間が経過した。  「何、その格好……」  目を丸くした武蔵が彼女に聞いた。  「どう? イケてるでしょ?  私も捨てたもんじゃないでしょ?」  大胆なスリットの入ったロングドレス を身にまとった月野が武蔵の前で 悩殺ポーズをしてみせた。  月野の大胆なショットに動揺を隠せない 武蔵……  「だ、だから、何なんだよ。その格好は」  と語気を少し強めた。  武蔵の表情を見て少し拍子抜けした 様子の月野……  「も~、そんなに怒んないでよ。 まるで保護者じゃん。 これは、この街の権力者が集うお店に 潜入するために私、この一週間、お店の周りをうろついてたら、 やっと声がかかったのよ。『うちの店で働かないかって』 で、お店からこの服を着てくるように言われて」  月野はそう言うと、後ろに束ねた黒髪をおろして みせた。  束ねた細く艶やかな黒髪がファサっと、 解き放たれると同時にいい匂いが武蔵の臭覚を 刺激した。  「潜入か……いよいよだな。俺等の初陣」  武蔵が呟いた。  「そうだね……」  二人の顔が真剣な表情に変わった。  「月野……これ」  武蔵が月野に何かを渡した。  「何これ?」  「超小型、新型の盗聴器とカメラだ。 さっき、本部から届いた。お守りだ」  「ありがとう……」  「無茶はするなよ……」  「わかってる」  月野は微笑むと、部屋を出て行った。  その日を境に入店した月野は『ルイ』と名乗り、 潜入した店のナンバーワンになった。  彼女目当てに街中の男達が来店するようになった。  それから三日後……  黒服に身を包んだ武蔵が、 ルイが座るソファーの横に立つと、 彼女を指名した上客に、店で一番高い酒を 差し出した。  二人の潜入捜査が進むにつれ、ゆっくりと…… 本命へと近づいていく。  やがて、黒幕を突き止めた二人は、 人質奪還に向けて動きだすのである。
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