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ミッション開始
「月野、そっちはどうだ?」
インカムから聞こえてくる武蔵の声。
片陰の街の海沿いに位置する倉庫街の
一番奥まった雑居ビルの地下室の入り口に
潜入した月野……。
そして、雑居ビルの正面玄関を見渡すように
バイクにまたがり様子を伺う武蔵。
「大丈夫、今は見張りが少ないから
私一人でも大丈夫。神谷、そっちこそ
一人で大丈夫?」
月野が武蔵に話しかけた。
「大丈夫に決まってるだろ?」
「そう、なら各自自分の責務を全うするだけよ」
「ああ、俺等は、無事に無傷で
御曹司を助け出す」
「その通りだよ。神谷、月野……」
インカムから南隊長の声が聞こえて来た。
「月野、神谷、よく聞け、このミッションの
チャンスは一度きり……」
入江の声が聞こえた。
「一度きり……」
武蔵が呟くと、
「失敗は許されない……」
月野もそう呟いた。
「全隊員に告ぐ……。
これより、ミッションを開始する。
敵の兵隊はざっと、最低で100名。
我ら部隊は40名……。
月野と神谷はターゲットの奪還に集中。
その他の隊員は二人の援護。
そして、組織の制圧、奴等の全アジトの破壊。
敵との接触の際は応戦を許可する……。
皆、生きて会おう……」
入江がそう告げた。
南の声に全隊員が集中する。
「カウント……5、4,3,2,1、GO……」
南、入江隊の隊員が一斉に行動を開始した。
ドカーン……ドカーン。
雑居ビルの外で数回の爆発音がした。
ドドドド……。
それを合図に地下室の入り口にいた
月野が小型小銃でドアノブを破壊する。
地下室から聞こえる破壊音を確認した
武蔵が、バイクのスロットルを全開にすると、
混乱する雑居ビルの中に勢いよく突っ込んだ。
大勢の敵の兵隊が武蔵目掛けて、襲いかかる。
武蔵が上半身を伏せると共に後方から、
援護部隊が一斉に発砲を始めた。
パキュン……。パキュン……。
う……、バタン。 ドサ……。
援護部隊の狙撃を受けた敵の兵隊が
次々に床に倒れ込んだ。
「神谷……地下室に急げ!」
一人の隊員が叫んだ。
それを聞いた武蔵は、雑居ビルの中の廊下を
走り、地下室へ続く階段を勢いよく駆け下りた。
「ひとり抜け出したぞ。追え」
敵の兵隊の叫び声に、数名の兵隊が
武蔵の後を追った。
一方、地下室のドアを破壊した月野は、
その場に立ち尽くす。
「隊長……人質がいません」
インカムから月野の声が聞こえた。
「いない……?」
「地下室に隠し扉があり、
恐らく抜け道かと……。
ここから、人質を連れて外に逃げたようです」
月野がそう答えた瞬間……息を切らした
武蔵が地下室に入って来ると、追撃を阻むように
ドアを閉め、近くにあった作業棚をドアの前に
移動させた。
肩を上下に揺らしながら、
「はぁ、はぁ、隊長、神谷です……
地下室の外には敵がいます。
このまま、月野と二人でこの抜け道を進んで奴等を追います。
追跡許可と制圧許可をお願いします」
と武蔵が言った。
「……」
数秒間の沈黙の後、
「了解した。月野と神谷はそのまま、
奴等を追え。
追跡と制圧を許可する」
「了解……」
武蔵が応答し、月野の顔を見ると、
「やれるよな?」
と呟いた。
無言で頷く月野……。
二人は、腰に装着した拳銃の位置を確認すると
隠し扉を開け、薄暗く一直線に延びた抜け道を走り出した。
「全隊員に告ぐ……
敵が人質を連れて地下の抜け道から逃走した。
月野と神谷が後を追っている。
それぞれの班は、各自周囲の警戒を怠るな……
敵と遭遇した場合は、人質奪還を優先する。
これより、第1班と第2班は、
引き続き各拠点の制圧と破壊を行う。
南隊長と第3班は月野と武蔵を追う。
以上……」
インカムから聞こえる入江の声が、
薄暗い抜け道を走る月野と隼人にも聞こえていた。
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