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悪役令嬢、自由気儘な生活
私は激怒した。
それは自国を抜けた道程で御者が馬車ごと私を置いて逃げたからでもなく、馬も連れていかれたからでもない。
なぜ怒るのかは私の置かれている状況を見れば分かるはずだ。
くすくす意地悪そうに笑う妖精たち、
ざわざわと私を見守る木々、
そして私の周りを取り囲む見るからに凶悪な魔物たち…………。
そう今、私は魔物の巣食う森にいる。
頼みの綱のクロベニは夢の中にいる。
逃げるのは別にいい、いいけれど置いていく場所を考慮してほしい。
私は魔法がなんでも使えてすごい使い魔もいるが仮にも非力な美少女だ。
こんなところにいれば数分も持たずに食われてしまう。
そんな事を考えながら魔物を力任せに殴る。
『オラッ、オラァ! 』
小気味のよいパンチの炸裂音が森に木霊する。
しばらくすると魔物はぐったりとし、その仲間もどこかへ消えていった。
『ふぅ、屋敷で毎日遊びまくって…ん゛ん鍛えてたおかげね! 』
すると、「な~んだ、死ぬと思ったのに」とさっきまでくすくす笑っていた妖精の一人が言った。
『えッ妖精こわッ…』
(えッ妖精こわッ…)
戦慄が走る。
この恐怖を例えるなら、さりげなく辺りを見回していたらカーテンの隙間からこちらを見ている誰かと目が合う…、そんな害はないが気味の悪い恐怖。
「心の声がももれてるよ? それと魔物を素手で倒すにんげんに言われたくはないね」
私はその妖精から離れようと宛もなく歩いた。
「まってよ」
綺麗な羽を動かして私に近づく、動く度に煌めく粉がはらはらと舞う。
『何? 』
私が死ぬと思ってただ見ていた妖精に恐怖もあった。
しかし、今の状況に対する怒りが大きかったため素っ気なく返せた。
「ぼくとあそ」
『嫌だ』
言葉は最後まで聞かなかった。
なにが言いたいか分かってしまったのだ。
妖精は「遊ぼう」と言おうとしたのだろう、けれど遠慮させてもらう。
何故なら見殺しにする奴との遊びなんてろくなものじゃないからだ。
「あそんでくれたら森の出口に案内してあげるのに……」
残念そうにこちらをちらちらと見る妖精。
前を見ても木、横を見ても木、後ろを見ても木、空は木で覆われて太陽は見えない。
(このままなにもしなければ出ることはできないよね)
そう思わせるのに時間はかからなかった。
『いいわ、一緒に遊びましょう』
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