沈む魔法少女

2/2
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
 ツリーハウスのような風貌のそれを、魔法少女のシェルルは「秘密基地」と称する。  やや傾いた階段に、一生懸命造ったブランコ、デコレーションした部屋。今となっては全て素晴らしい想い出だ。  珈琲に砂糖を投入しかけて、止める。ロッキングチェアに体重を乗せたその時、軽やかなベルが来客を告げた。 「はーい」  こんな森の奥深くに、珍しい。ドアノブを捻ったら、十五歳ほどの少年が立っていた。  何故か懐かしさを感じる茶髪に、垂れ目で眼鏡をかけた幼気な子だ。 「シェルルさんですか」 「そうよ。……取り敢えず中へどうぞ」 「お邪魔します」  少年は秘密基地に入り、物珍しそうにそこらを見回している。 「座りなさい」  シェルルが少年に椅子へ着くよう促すと、少年は大人しく従った。  シェルルはティーカップを机に置く。 「紅茶よ。苦手ではないかしら」 「いえ、大好きです」 「ふふ。お名前は?」  少年は「コンテです」と答えた。  「コンテね」と微笑んだシェルルは、続けて少年……コンテに問う。 「それで、ご要件は?」  コンテは「あ」と声を漏らして、口をモゴモゴと閉じたり開いたりを繰り返す。すると、十数秒してようやく言葉を発した。 「ソルさんについて、伺いたいことがあるんです」  シェルルは一瞬目を見張り、けれどすぐに妖艶な笑顔ではにかむ。  ソルは魔法少女として活動するシェルルの無二の親友であり、相棒だ。つい先日、行方不明になったことで国がざわついた。 「貴方、記者見習い?」 「いえ。……ソルさんの失踪は、親密な仲であったシェルルさんの仕業だと疑う人が大勢いますが」  また暫しの沈黙を挟むと、コンテはか弱いが芯のある声で言った。 「多分、シェルルさんは真相を知っていますよね。僕らに、何か隠していることはないですか」  深い問いかけ。シェルルはそれに頷くように、珈琲を一口啜った。荒れたスカイブルーの長髪を手櫛で整え、神妙な顔付きに変化する。 「私ね、ソルは居ないしお仕事も無いから、暇なの。語ってあげましょう」  そうしてシェルルは話を始めた。面白い御伽噺を子供に教えるかのように。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!