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ツリーハウスのような風貌のそれを、魔法少女のシェルルは「秘密基地」と称する。
やや傾いた階段に、一生懸命造ったブランコ、デコレーションした部屋。今となっては全て素晴らしい想い出だ。
珈琲に砂糖を投入しかけて、止める。ロッキングチェアに体重を乗せたその時、軽やかなベルが来客を告げた。
「はーい」
こんな森の奥深くに、珍しい。ドアノブを捻ったら、十五歳ほどの少年が立っていた。
何故か懐かしさを感じる茶髪に、垂れ目で眼鏡をかけた幼気な子だ。
「シェルルさんですか」
「そうよ。……取り敢えず中へどうぞ」
「お邪魔します」
少年は秘密基地に入り、物珍しそうにそこらを見回している。
「座りなさい」
シェルルが少年に椅子へ着くよう促すと、少年は大人しく従った。
シェルルはティーカップを机に置く。
「紅茶よ。苦手ではないかしら」
「いえ、大好きです」
「ふふ。お名前は?」
少年は「コンテです」と答えた。
「コンテね」と微笑んだシェルルは、続けて少年……コンテに問う。
「それで、ご要件は?」
コンテは「あ」と声を漏らして、口をモゴモゴと閉じたり開いたりを繰り返す。すると、十数秒してようやく言葉を発した。
「ソルさんについて、伺いたいことがあるんです」
シェルルは一瞬目を見張り、けれどすぐに妖艶な笑顔ではにかむ。
ソルは魔法少女として活動するシェルルの無二の親友であり、相棒だ。つい先日、行方不明になったことで国がざわついた。
「貴方、記者見習い?」
「いえ。……ソルさんの失踪は、親密な仲であったシェルルさんの仕業だと疑う人が大勢いますが」
また暫しの沈黙を挟むと、コンテはか弱いが芯のある声で言った。
「多分、シェルルさんは真相を知っていますよね。僕らに、何か隠していることはないですか」
深い問いかけ。シェルルはそれに頷くように、珈琲を一口啜った。荒れたスカイブルーの長髪を手櫛で整え、神妙な顔付きに変化する。
「私ね、ソルは居ないしお仕事も無いから、暇なの。語ってあげましょう」
そうしてシェルルは話を始めた。面白い御伽噺を子供に教えるかのように。
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