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お店の中に入ると男を見つけて華奢な女は言った。
「お腹が空いたって、本当?」
大柄な男は脂ぎった額から汗を垂れ流しながらごくりと頷いた。
「ああ、四日間、何も食べてないんだ」
女はテーブルの上の空になった夥しいほどの皿を見つめていた。
「これ、あなたが全部食べたの? 何人前?」
男は眉間に皺を寄せて答えた。眉間が常人の眉間ではなく、もはや肉塊と化していた。
「七十二人前だ。俺の前菜にしては少な過ぎる。貧相な食前のサラダのようなものだった」
女は呆れることを通り越して動揺していた。
「四日間食べてないって本当なの?」
男は渋い顔をした。たっぷりと弛んだお腹をさすった。二重顎ではなく五重顎になっている顎を引いて真剣に答えた。
「四秒の間違いだったかもしれない。しかし俺はいつも飢餓状態なんだ。飢え死にしてしまう。お願いだ。命を助けると思って、早く次の店に行こう!」
女は目を瞑ってゆっくりと声を発した。男は巨大な炊飯器を持ちながら今もなお食べ続けている。
「あなたが行くべき所は病院よ。肥満外来です。このままだと本当に死にます」
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