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第1話 夏が来る
――智昭さんが、死去しました。
緊張しているのか、泣くのをこらえているのか、その声は震えていた。
「ねーナツくん、そうめんは一束? 二束?」
姉ちゃんの声が、台所から聴こえる。
はっと我に返り、俺はスマホをベッドに放り投げて部屋を飛び出す。
「一束半! ごめん、今電話してんだ」
「あ、ごめーん」
りょうかーいと言って、姉ちゃんが降りていく。
完全に姉ちゃんの気配が消えたのを確認してから部屋に戻り、俺は電話の相手に謝る。
「すいません、今姉ちゃんが昼ごはんの算段を聞いてきて」
『……今の、明子さんですか?』
「あ、はいそうです」
電話の相手は、智昭さんの奥さんだった。会ったのは、二人の結婚式以来だ。
──思い出すのは、結い上げた栗色の髪にかかったウェディングベール。それが初夏の風によって揺れていた姿。彼女はトモちゃんと腕を組みながら歩いていた。とても幸せそうに笑っていた。
幸せそうだね、トモちゃんと花嫁さん。
隣で手を叩きながら、姉ちゃんが花嫁さんに負けないぐらいの笑顔で言ったのを覚えてる。
思い出している間、今朝亡くなったとか、通夜と葬儀の日程とか、式場とか、事務的な話が彼女の口から続けられる。
そして、こう言った。
『明子さんにも、来ていただきたいのですが……』
「すいません」
俺は、自分でも驚くほど硬い声で返した。
「姉ちゃん、記憶がないんです。一年前から」
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