戦場のヒッチハイク(2)

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戦場のヒッチハイク(2)

 勇ましい太鼓とラッパが鳴り響く。  すると川を挟んで対峙していた両陣営が、武器を互いに向けて発射。  撃ちあいがはじまった。  クロスボウみたいな武器で対岸の相手に狙いをつけ、次々に放つ。  パシュ! ドシュッ!  体に刺さるような、潰れるような、耳を塞ぎたくなる音が聞こえてくる。 「ぐわー」 「ぎゃぁ」  互いの陣営で、赤い血が飛び散るのが見えた。兵士たちが次々倒れてゆく。 「ああっ!」 「ミヨよ静かにするのじゃ」 「巻き添えになるでござる……!」  でもっ!  こんなのダメだ。  今までこんなことなかったのに、戦争なんてしちゃダメだよ!  互いの陣営で兵士たちが次々と倒れてゆく。赤い血を胸から散らし倒れる。 「村同士の争いのようじゃな」 「いかんでござる、ミヨどのキュンどの、こっちに来たでござる!」  フェルトさんが立ち上がった。 「まって、危ないよ!」 「ミヨどのは、キュンどの手を決して離さずに」  兵士たちの方に向けて走ってゆく。 「フェルトさぁああん!」 「ミヨ、やめるのじゃ」 「でもフェルトさんが……!」  相手の武器は飛び道具。フェルトさんの剣じゃ勝負にならない。  対岸から兵士たちが二人、フェルトさんに狙いを定める。 「あぶない!」  思わず叫んでいた。  でも次の瞬間、フェルトさんの頭と胸から赤い血が飛び散った。 「――ッ!」  命中音とともに、その場に倒れ…………ない。  僕はキュンを抱えたまま、フェルトさんのもとへと駆け出していた。 「二人発見!」 「撃て!」  対岸の兵士が武器を僕に向けた。 「キュンッ!」 「のわ!?」  僕は背中にキュンを庇い、  痛ッ!?    撃たれた。  や、やられた……。  胸から赤い血が……が……?  あれ?  痛く……はないけど。  胸とそこに触れた手に、赤い血がベッタリ。  あれ、血じゃない。 「ミヨよ、無事か?」 「ミヨどの……気を確かに!」  フェルトさんも平気で立っている。  ということは? 「こらそこぉ! 命中した倒れろよ!」 「ゾンビ禁止! でかい犬耳と、ちびっこらも死亡ね! はい倒れて!」 「すまぬでござる!」  フェルトさんが叫んで僕を抱き抱えるように草むらに伏せた。 「え、なにこれ……?」 「ミヨどの、命中したら死亡、倒れる。という戦いらしいででござる」  フェルトさんが僕の頭をなでた。 「平気なの!? 怪我は」 「……痛いのは最初だけで、別に大丈夫でござるな。ミヨどのもどうでござる?」 「僕も……怪我は無い」 「ミヨよ、これは血ではなく『赤い果汁』じゃぞ」  キュンがフェルトさんの身体についた赤い知るを指先ですくって、舐めて、渋い顔をした。 「あっ……あれか!」 「どうやら、村の入り口でみた『赤い果実』を撃ち合っているようでござる」  フェルトさんは、頭から潰れた果実をつまんで、僕らに見せた。  確かにあの渋くて食べられなかった赤い果実だ。  これを撃ち合っていたんだ。  命中すると弾けて、赤い血みたいに見えていただけってことか。 「どうやら戦の真似事らしいのぅ」 「よ……よかったぁ」 「拙者も最初は死んだかと思ったでござるが」 「ワシはミヨを盾にして無事じゃぞい」 「もう、キュンってば」  それにしても、なんなのこれ!?  驚きと混乱を通り越して笑いが込み上げてきたけれど。  視線を転じるとロミエッタ村、ジュリエッタ村、それぞれの川岸は死屍累々。  多くの兵士たちの死体がころがっている。  みんな倒れて動かない。  真っ赤に染まった鎧兜が戦いの凄惨さを物語っているけれど……。  しばらくすると、太鼓とラッパの合図と共に戦いの終結が告げられた。 「……くそ、死んだわ!」 「やれやれ、やられた」 「生き残れると思ったのによ!」  倒れていた両岸の兵士たちが次々と、むくりと起き上がる。  まるで動く死体のようだけど、真っ赤に染まった顔や、鎧兜はぜんぶ『赤い果汁』なのだ。  だれも死んでいないし、怪我人もいない。 ヘルメットを脱いで「即死だった」とか言って笑っている。 「戦争ごっこ?」 「祭りじゃろうかの」 「拙者どもは巻き添えを食ったらしいでござるね」  やれやれだね、と僕ら赤く染まった顔を見合わせた。 <つづく>
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