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新しき仲間と思わぬ誤算
「しばらくの間、拙者をお供にしてはくださらぬか」
フェルトさんは片膝をついて、頭を垂れた。
「えっ? お供?」
「一緒に旅をしたいと申すか」
「共に、旅をさせて頂きたい。お願い申す」
僕とキュンは顔を見合わせて、
「いいよ! 一緒に旅をしてくれるなら嬉しい」
「頼もしいのは間違いないのぅ」
「ありがとうでござる!」
こうして新しい旅の仲間ができた。
◇
次の目的地はさらに東、大陸で最大といわれる街だ。
狼犬族の戦士であるフェルトさんも一緒に歩く。
大きな身体に黒い鎧、腰には剣をぶら下げている。見た目が格好いいし頼もしい。
「拙者、村を出て初めて見るものばかりでござる」
「僕も初めてみる景色ばかりだよ」
「ミヨ殿もでござるか? 旅慣れたご様子ですが」
「旅を始めて一か月ぐらいだもの」
「そうなのでござるか」
川沿いに下流に進むと川幅が広がってきた。
見晴らしの良い草原地帯を流れる大河は、魔女さんのホウキで空を移動中、眼下に見えていた風景だった。小さな農村や集落、そしてパッチワークのような畑が見える。
「そろそろ馬車なり牛車なり、捕まえたいところじゃな」
「そうだね」
歩くのも疲れてきた。
キュンの言う通り、ヒッチハイクしたいなぁ。
「ところで、だいぶ歩いて疲れたのう」
は?
「疲れたって、ずっと僕が肩車したけど……」
キュンは座っていただけじゃないか。
「たわけ、ミヨが疲れたであろうというワシの優しさじゃ。時にそこなフェルト、ワシを背負ってみぬか?」
「はっ!? なんと、では喜んで」
疲れたというキュンを僕に代わりに肩車するフェルトさん。
「おぉ、眺めが良いのう」
「余裕でござる!」
やっぱり頼りになるお兄さんだなぁ。それに一緒にいると安心感が違う。なんたって見た目はいかにも強そうな戦士なのだから。
「よかったね、キュン」
肩の荷が下りたというか、楽にはなった。
けど……。
なんだかちょっと寂しい気もする。
「鉄の鎧が痛いのぅ」
「すまないでござる」
キュン、楽しそう。
僕よりフェルトさんの肩車のほうが見晴らし良いものね……。
「なんじゃミヨ、寂しそうじゃのぅ?」
「べべ、別にっ!」
「シシシ可愛いのぅ」
もう、すぐに見透かしたようなことを言うし。
と、馬車が向こうからやって来た。
幌の無い平積みタイプの荷台を、一頭の馬が牽いている。御者はおじいさんが一人。荷台には干し草のようなものを積んでいる。
「ミヨ、出番じゃぞい」
「ま、まかせて!」
早速、スケッチブックを取り出して『東の方へ』と書いてあるページを開いて、掲げあげる。
50メートルほど手前で僕たちに気がついた馬車は、ゆっくりと減速しはじめた。
笑顔でスケッチブックを掲げ、乗せてくださいアピールだ。
「おねがいしまぁす!」
「乗せるのじゃぁ!」
「の、乗せてほしいでござる!」
けれど、馬車はそそくさと加速して通りすぎてしまった。
あっという間の出来事だった。
「あれ……失敗した」
「ミヨよ、誠意が足りんかったのかのぅ?」
「そうかなぁ」
笑顔はいつも通りだけど。
仕方ないのでまた歩く。
30分ほど歩くと村が近いのか、牛が牽く乗り物がやって来た。
スカーフを被った若い中年の女性が御者。牛の背中を棒でつつきながら、野菜を平積みした荷台を運んでいる。
「よーし、今度こそ!」
再びヒッチハイクにチャレンジ。
「おねがいしまーす、乗せてくださいー」
スケッチブックをかかげて、笑顔。
女の人はすぐに僕たちに気がついた。
よし、今度こそうまくいきそう。
そう思ったのもつかの間、みるみる女の人の表情が固くなり、凍りついたかとおもうと、僕たちの前を、やや速度をあげながら通りすてしまった。
「あれれ……?」
「なんでじゃ?」
女の人は一瞬、怯えたような視線を向けた気がした。
僕たちの背後へ、ほんの一瞬だけ向けて、すぐに顔を背け……。
「……」
「……」
僕とキュンはゆっくりと顔を見合わせた。
そして狼犬族の戦士、フェルトさんに視線を向ける。
犬のような顔に大きな体躯。そして黒光りする全身鎧、フルアーマに大きな剣を腰に下げている。
見た目が、怖い。
「拙者が……何か……ハッ!? もしや馬車が通り過ぎたのは拙者のせいでござるか!?」
犬のような耳をぴこっと立てて、目を丸くする。
あわわと慌てはじめる。
話せば穏やかな良い人なのに。
道端で見かけたら怖い、と思うかもしれない。
「うーむ、フェルトの見た目が問題じゃな」
「キュン! そんなことないよ、失敗することなんてよくあるし……」
慌ててフォローしよとするけれど、ヒッチハイク連続失敗の原因はやっぱりフェルトさんの見た目かもしれない。
「拙者がご迷惑を……どどど、どうすればよいでござる!?」
「仕方ないのぅ。愛らしいワシとミヨで馬車を止めるから、フェルトは物陰に隠れておれ」
「キュン、それだと騙し討ちというか、山賊みたいだよね!?」
うーん、思わぬ誤算。
どうしよう……?
<つづく>
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