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暗黒騎士フェルトさんのイメチェン
「今まで『ひっちはいく』が上手くいっていたのは、ひとえにワシの愛らしさとミヨの人畜無害な雰囲気のおかげだった……というわけじゃな」
キュンは失敗したヒッチハイクの原因が、新しい仲間のフェルトさんにある……と、言いたいらしい。
「キュン! なんてこというのさ。それじゃまるでフェルトさんのせいで失敗したみたいじゃん」
「だってそうであろうが」
「……う」
そう言われると僕も返す言葉がない。
次こそ成功すると前向きになりたいけれど、さっきの様子ではまた失敗してしまうかも。
「考えてもみい。盗賊でさえ見かけぬご時世に、全身真っ黒な鎧姿で狼のような面構え、おまけに物騒な剣を持つ大男を好んで乗せようというヤツなんぞおるまい」
「まぁ、普通に考えたら自分の馬車に乗せるの怖いかもね」
僕らにとっては頼もしいフェルトさんだけど、見た目が怖いのかも。
ふたりで小声でコソコソ話していたけれど、フェルトさんはその犬耳で聞いてしまっていたらしい。
どうっと膝を折り、地面に両手をつきうなだれる。
「なんと……! ミヨどの、キュンどの、この武器がいけないでござるか!? すまぬでござる!」
「え、いやその、そういうわけじゃ」
「顔をあげぬか!」
「……しかしながら、この剣は拙者の大事なものでござる。お二人をお守りできる力でもあるのでござる。それが……よもやこれが旅の妨げになるとは、口惜しや」
さすがのフェルトさんも困惑し、ぐぬぬと悔しさを滲ませる。狼みたいな耳がしゅんと垂れて、なんだか可哀想。
なんとかならないかなぁ。
僕は考えた。
キュンはフェルトさんの尻尾を触って慰めているのか、モフモフしたいだけなのかわからないけれど。
「あ……そうだ!」
良いことを考えついたかも。
「どうしたのじゃ、ミヨ」
「フェルトさんに本当の『旅人』になってもらおう」
「本当の旅人ですと……?」
「ふむ、なるほどの」
僕の言葉に小首をかしげるフェルトさん。キュンは悟ってくれたみたいだ。
「今のフェルトさんは、誰がどう見てもゴツい重武装の騎士か戦士でしょ? それじゃ印象が悪いといか……だから乗せてもらえない」
「そうじゃな」
「だから鎧を脱いで、剣もはずして!」
「そ、そんなことをしたら拙者、ただの狼犬族の男になってしまうでござる」
「それがいいの。鎧と剣を背負って『鎧と剣を運んでます』っていう感じにすれば、立派な旅人だよ」
「な、なんと……!」
フェルトさんが驚き、目を丸くした。
「ミヨにしては、良い考えじゃの」
「鎧は必要になってから装着すればよかろうて」
「そうそう、僕が時間を稼ぐから」
今まで危ない人に襲われたこともないし。危なくなってからも間に合うよ、きっと。
「て……天才でござるか!?」
「そんな大袈裟な」
「にょほほ」
フェルトさんは鎧を脱ぐと、鎧のパーツを固定用のひもでひとまとめに。
さらに剣を「背骨」みたいな芯にして、器用に組みあげた。
「できたでござる」
鎧と剣は、コンパクトで背負いやすい、リュックみたいな形状になった。
かなり重そうだけど、背負うと「鎧を背負っている旅人」の完成だ。
「これで良いでござる?」
「いいね!」
「うむ、これならよさげじゃ。何より、尻尾と耳が引き立つのぅ」
「そ、そうでござるか?」
フェルトさんの鎧の下は、モフモフの黒い毛で覆われたワンコみたいだった。片側の肩から「古代ローマ人」みたいな布を巻いている。
尻尾がふさふさ、なんか干し草みたいな良い匂いもする。
「うーん、なんか昔マンガで読んだ、聖闘士(セイント)みたい」
「セイント? なんじゃそれは」
「鎧を背負って、戦いの場面になるとチャキーンって装着する感じの」
「……まんじゃじゃの」
「良くわからんでござるが、これで旅を御一緒できるでござるね」
「うん!」
「良かったのう」
こうして、フェルトさんは暗黒騎士から、聖なる闘士っぽい旅人にチェンジした。
<つづく>
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