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僕たちの旅のやりかた
リュックから「スケッチブック」を取り出して開く。
白い紙面に油性の黒いマジックペンを走らせる。
――『つぎの街まで乗せて!』
この文字が「日本語」か外国語か僕にはもうわからない。とにかく字をハッキリと見えるように大きく書くのがコツ。
「ミヨ、はやくするのじゃ」
「焦らなくても大丈夫だよ、キュン」
「こんな炎天下でヒッチハイクに失敗したら、干乾びて死んでしまうぞい!」
これが僕の相棒『羽なし妖精族』のキュン。
緋色の髪にくりっとしたつぶらな瞳、見た目は小さな女の子。お婆ちゃんみたいな口調でいろんな事を知っていて、本当の年齢はわからない。
一緒にいると口の悪い妹みたいで憎たらしいったらありゃしない。けれど、異世界の「旅」が寂しくないのはキュンのおかげ。ま、すぐに調子に乗るから口には出しては言わないけどね。
「確かに暑いね」
雲ひとつ無い青空が恨めしい。
なだらかな砂丘の間を縫うように、乾いた砂ぼこりに覆われた道が果てしなく続いている。陽炎にゆらいでいるのは、馬車の車輪が残した轍の跡だ。
その向こうから大きなトカゲが二匹、ゆっくり近づいてくる。
正しくは巨大なトカゲが牽く馬車だ。ん? 馬じゃないから蜥蜴車かな。
「あれは砂漠バジリスクオオトカゲじゃな、ということは砂漠の民かの。まぁなんでもよい、獲物をゲットするのじゃ!」
僕のリュックを揺らすキュン。とにかく助かった。
「獲物とか言わないの、乗せてもらうんだから」
キュンはいろいろなことに詳しい。生き字引で「検索サイト」かってくらい何でも知っている。
あれ? 検索サイトって……なんだっけ?
『ぶしゅるる……』
長い尻尾を優雅に左右に振りながら二匹のオオトカゲがやってきた。赤い舌をチロチロ。いわゆるドラゴン的な生き物だけど翼は無い。体の色は砂色で表面はごつごつして岩のよう。全長3メートルぐらいで馬みたいに大きい。
手綱と金具で固定された二頭の大トカゲが牽いているのは、白い幌を荷台に張った荷車だ。御者は白い髭をたくわえたおじいさんがひとり。
荷車にも誰か乗っているみたい。蜥蜴の馬車20メートル手前まで近づいてきた。
「のせてくださーい!」
スケッチブックをよく見えるように掲げて、笑顔で親指を立てるポーズ。
「のせるのじゃぁ!」
これが異世界ヒッチハイク。
僕たちの旅のやりかた。
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