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おそろい
「美咲君」
「……!」
改札前で後ろから声をかけられ、美咲は飛び上がるくらい驚いた。
「安村さん」
「どうやら一緒の電車だったようだな」
いつものように二カッと笑う。
今日の安村は、紺のポロシャツに白いチノパンだ。袖のところにチェックの柄が入っているのが安村らしい。
いつものワイシャツにスラックスの姿もいいが、ラフな格好もまたいい。
「少し早いが、行こうか」
安村は美咲を先導しながらにこやかに話した。
「いつもと雰囲気が違うから、間違っていたらどうしようかと思ったよ」
「今日は仕事帰りじゃないので、おしゃれしてみました」
「よく似合っているな」
サラリと付け加えた安村の言葉に美咲はついうつむいてしまう。
彼にそう言われたくて精一杯おしゃれをしたのに、臆面もなく言ってくる安村。
照れる。彼の一言に飛び上がるくらい嬉しくて、心がぐちゃぐちゃになりそうで。
「ん?どうした」
「……なんでもないです」
心配そうに顔を覗き込もうとうする安村を押しのけるように美咲は目的地に向かって歩き出した。
※
暑いから涼しいところに。考えることはみんな一緒のようだ。
折しも夏休みに入っていることもあって、水族館は思いの外混んでいた。
「こりゃすごいな」
人混みに安村は苦笑する。
「美咲君、こっちに……。おっと」
「あっ」
人に押され、美咲はよろめく。ちょうど振り向いた安村の胸に飛び込む形になった。
大柄な安村の胸にスポッとおさまる。服の上からもわかるくらい厚い胸板に顔が当たって、変にドキドキしてしまう。
美咲の気持ちを知らずか、安村は美咲の肩あたりを持ち、そっと自分の体から離した。
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