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「おっと。すまない、触ってしまった」
「い、いえ。大丈夫です」
「それなら良かった。……後でセクハラとか言わないでくれよ」
リラックスさせるためなのだろう。わざとおどけた言い方をする安村に美咲は吹き出す。
「いいませんよ。……多分」
「怖いな。セクハラは仕事柄ご法度なんだよ」
本気とも冗談ともつかない安村のセリフに美咲はいたずらっぽく笑う。
「なら口止めの代わりに」
「代わりに?」
「ぬいぐるみ買ってください。これでさっきのこと忘れます」
「よし、約束だぞ」
安村は安心したように笑う。
「そうと決まれば行こうか、美咲君」
人混みを縫うように進む安村に遅れないように美咲も足早について行った。
安村にプレゼントしてもらったのは、その水族館オリジナルのサメのぬいぐるみ。
大きく口を開けた姿が、ニカッと笑う安村をどことなく彷彿とさせる。
この子を見るたびに安村を思い浮かべるくらいには似ていた。
美咲はそっとサメのぬいぐるみを持ち上げた。
残念なことにペンギンやイルカといった水族館のマスコットたちと比べて、このぬいぐるみは人気がないようだ。
隅っこに追いやられるようにして置かれていたサメは2つ。
そのうちの一つは美咲が持っている。
しばらくサメとにらめっこした安村は言い訳するように呟いた。
「……一匹でここに置いていったら可哀想だな」
突然乙女チックなことを言い出す安村に美咲は我慢出来なかった。
声を上げて笑う彼女を横目に安村は残った一つを自ら手に取ると、美咲のサメと一緒にレジに通したのだった。
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