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変わるもんだな。
受付で笑顔を浮かべている美咲を視界の片隅に入れながら安村は心の中で呟く。
高校からの友人の前野の妹。
やけにウマがあって、よく家を行き来していた。
その時に何度か会ったことのあるくらいの関係でしかない美咲のことを覚えていたのは、幼い彼女に告白をされたからだ。
8つは下の少女からの告白。
顔を真っ赤にして、初めて作ったという手作りのチョコクッキーをきれいにラッピングして。
淡い懐かしい思い出。たまに前野と飲むと時折話題に出ることもある、青春時代の一コマ。
それだけだったはずなのに、何年かぶりに会う彼女は幼い少女ではなく、一人の女性として安村の前に現れた。
ショートカットで日焼けしていた、かつての少女はそこにはいなかった。。
シニヨンヘアでシックなダークグリーンのドレスに身を包んだ美咲と、記憶の中の少女。
一致させることができたのは、右目の下の泣きぼくろと、笑うと左側だけにできるえくぼのおかげだ。
安村はチラリと受付を見やる。美咲は次々と来る来賓に丁寧に挨拶をし、案内をしていく。
シスコン気味の前野から時折話は聞いていたが、こんなにも立派な女性になっているとは。
安村は目を細めた。
(大きくなったなぁ)
久方ぶりに親戚の子と会ったような、卒業した教え子が数年ぶりに会いに来てくれた時のような不思議な感慨を覚える。
(本当に……)
「よう!」
安村の思考は友人の声掛けで中断された。
「久しぶりだなぁ」
続く言葉は、一瞬で霧散する。
安村はそれきり受付に目をやることはなかった。
もう二度と会わないだろう美咲のことも考えることはなかった。
ないはずだった。
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