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「「女性」としては見れませんか?この先も、永遠に」
美咲の視線は揺るがない。
こういう目は生徒の指導の折、何度も見てきた。
ごまかしやすり替えは通用しない。本音で話さない以外は通用しない。
安村は黙って水割りを飲み干す。
「……僕には、君と同じだけの純粋な想いは返せない」
「はい」
「歳も歳だ。次に付き合う女性は結婚も視野に入るだろう。そうすると、純粋に「好き」の気持ちで行動はできないんだよ」
「……なんで?好きって気持ちがあって、じゃないんですか……」
「僕が小心者だから、だよ」
美咲が目を見張る。
安村は自虐するように笑った。
「意外、かい?でも僕は君が思っているよりビビリだよ。
前野の妹だということ。付き合うと君の初めての男になること。別れた時に君よりも何歳も年上の僕のほうがダメージを受けること。
君に心を動かされていることよりも、リスクを考えて回避する。そんな男だ」
安村の吐露に美咲は沈黙する。
幻滅しただろう。きっと。
これできれいサッパリ自分のことなど忘れて他にいい男を見つけてくれることを願う。
「そろそろ行こうか」
黙ったままの美咲を促して安村は席を立った。
※
「美咲君」
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