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店を出たところで安村はいつもの癖で飴を渡す。
じっと見つめた後、美咲はクスリと笑った。
ほっぺたに現れたえくぼを見て、安村は安堵のため息をつくと自分の口に飴を放り込んだ。
舌で転がすと甘いレモンの味が口に広がる。
「安村さん」
やっと口を開いた美咲が静かに呼び止める。
「どうした?」
歩みを止めて振り向いた安村をすぐそこの路地に連れ込んだ。
「お、おいおい、美咲君。こん……」
「練習台になってください」
「ん?」
「付き合わなくていいです。いつか私に恋人が出来たときに失敗しないよう、安村センセイで練習させてください」
そう言うと美咲は安村の首に手を回した。
「安村センセイ、唇、届かないです」
考えるより先に体が動いた。
美咲の顎に手を添えるとくいっと上を向かす。
わずかに開いた口を塞ぐように自らのそれを重ねた。
初めてのキスなのにどこで知ったのか、絡めてこようとする美咲の舌を一舐めした。
「んっ……」
夏だというのにブルリと身を震わせた美咲を解放すると耳元でささやいた。
「悪い子だ、美咲君」
美咲は微笑を浮かべてポツリと呟いた。
「レモンの味だ。……しっかりこの味覚えておきます」
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