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練習相手※
あの日以来雰囲気が変わった、と言われることが増えた。
「彼氏でもできた?」
美咲にそう訊ねてくる人に首を振って否定をするのにも慣れた。
安村は彼氏じゃない。ただの練習相手。
好き、の言葉は言えない。人に関係性もうまく説明できない。
だけど、週に何回か会って、お互いの家にも行くようになった。
外で食事をしたりたまに映画を見に行ったり、キスしたり。
付き合ってはいないけれど、前よりも頻繁に会うようになった安村との関係。
美咲はそれだけで嬉しくなるのだった。
※
いつもキスをねだるのは美咲だ。
そして毎度少しだけ眉を寄せて、申し訳無さそうな顔を見せる安村。
もうこんな関係を始めて一月あまり経つのに、毎回同じ表情を見せる。
(そんな顔しなくていいのに)
唇が触れる時に一瞬タバコの香りが漂う。
吸っている姿は見たことがない。それでも時折体に染み付いた匂いが美咲の鼻を通り抜ける。
「んっ……」
安村の舌が美咲の舌を捉えた。背中がゾクリとする感覚は何度経験しても初めてのときのようにびっくりしてしまう。
美咲のよりも分厚い舌が器用に絡まってくる。
息をするのも忘れる。頭がクラクラして、唇以外の感覚がなくなる。
これ以上は危険だ。
本能的で腰が引ける。が、安村の腕がそれを許さない。
「んっ……。はっ……」
一旦離れる唇。角度を変えて再度塞がれる合間に声が漏れる。
深く、吐息まで呑み込もうとする安村にゾクゾクが止まらない。
(気持ち……いいっ)
何度もキスをしているうちに、このゾクゾクとしたものが、「快感」と呼ばれるものであることに気付かされた。
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