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再度滲みそうになった涙をグイッと拭うとカバンの中からポーチを取り出した。 念の為入れていたメイク落としで顔を拭き取ると、同じく鞄の中に入れていた歯ブラシを取り出した。 安村の優しさにつけこんで、期待して。 泊まることも予想していたかのように用意周到な自分に呆れる。 (最低だ、私) 自覚しているのに、同情でしかないのに。 それでも体を重ねたことは幸せでしかないのだ。 歯を磨き終えた美咲は、ポーチからメイク道具を取り出す。 少しだけ目が腫れているが、この程度なら手持ちの道具でうまく隠せそうだ。 ファンデーションを手で馴染ませると、素早くメイクを施していった。 「ありがとうございます」 ペコリと頭を下げる。 「あぁ。何か食べるかい?」 安村は先程のことを気にした様子はなく、いつものようにニカッと笑う。 その笑顔にズキンと胸が痛む。もうそんな顔を向けられる価値はないのに。 美咲は振り切るように首を左右に振ると笑顔を作る。 「いえ。昼から予定があるのでもう失礼しますね」 「ん……あぁ」 美咲の答えに戸惑った顔を見せる安村に不安が募る。 ちゃんと笑顔を作れていないのではないか、と。 それでも美咲は無理やり口角を上げて、玄関まで見送りに来てくれた安村に向かい合う。 「あの……」
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