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「ん、なんだい?」 「また練習させてくれますか?」 「……」 眉間に眉を寄せた安村は黙りこくった。 沈黙が続く。息を吸うのも憚れるくらいの重い空気だ。 「ん……わかった。いいよ、こんなオジサンで良ければ」 「……安村さんはオジサンじゃないです」 涙は堪えられたが、声は震えてしまった。そんな美咲の頭を安村は撫でた。 そんなことをされたら、我慢できない。 ブワッと溢れてきた涙を見られないように下を向く。 何とか絞り出した声は嗚咽混じりになってしまった。 「また、……連絡します」 「あぁ、待ってるな」 「はい」 ※ ふぅ、と深いため息を付いて、玄関脇の廊下の壁にもたれた安村は、再度深く息を吐いた。 彼女が、美咲がわからない。 好意は持たれているハズだ。 誘ってくるのもわかっていた。 迷いはあった。 だけど、それもひっくるめて覚悟を決めて体を重ねたつもりだったのに。 付き合うのはダメで練習ならいい。 理解ができなくて、思わず頭を掻きむしる。 「どういうことなんだ、全く。……僕にわかるように説明してくれよ」 安村の嘆きは虚しく空に消えていった。
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