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夏休み期間中は教師にとって絶好の研修期間だ。 安村も教育センターで実施されている外部研修に参加していた。 普段校内の教師としか接点がないから、研修は絶好の交流の機会なのだ。 「あれ、安村君。タバコ止めれなかったんだ!」 「先生と呼べよ」 安村は苦い顔をして声をかけてきた人物を見やる。 「いいじゃない。まだ龍彦って呼ばないだけマシでしょ」 はぁ、とため息をついた安村。 (最近、ため息ばかりだな) そんなことを考えながら彼女――真希が電子タバコを吸い始めるのを見ていた。 「なんかあった?」 相変わらず勘がいい。付き合っていた時は何度も救われていたが、今は逆に困ってしまう。 「別になにも」 「ふぅん」 気のない返事をすると、スパスパとタバコを吸っていく。 先に入った安村はまだ吸っているのに、真希はあっという間に吸い終わった。 「電子タバコでも変わらないんだな、その吸い方」 「そんなの変わらないでしょ。安村くんも相変わらずゆっくり吸うのね」 「だから先生をつけろって」 「いいじゃない。学校でもないんだし」 真希は大きく口を開けて笑った。 どちらかというとはにかむように笑う美咲とは全然違う笑い方だ。 「女だ、悩んでいるのは」 一瞬しか美咲のことを考えていないのに、真希は何かを察したようだ。 確信を得たとばかりに、にしし、と笑う真希に安村は再びため息をつく。
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